判旨
虚偽の借用証書を作成・使用した事案において、これを偽造文書と認定しなくとも判決に理由の齟齬はなく、擬律錯誤による破棄自判において証拠説明を要しないとしても刑訴法上適法である。
問題の所在(論点)
虚偽の内容が記載された借用証書を「虚偽の借用証書」と認定しながら「偽造文書」と認定しないことは、判決に理由の齟齬があるといえるか。また、擬律錯誤による破棄自判において証拠説明を要するか。
規範
判決に理由の齟齬(刑訴法378条4号後段)があるといえるためには、判決の前提となる事実認定と法律判断との間に、論理的に両立し得ない矛盾が存在することを要する。また、控訴審が擬律錯誤を理由に自判(同法400条但書)を行う場合、事実に変更がない限り、改めて証拠説明を行う必要はない。
重要事実
被告人が、内容が真実でない「虚偽の借用証書」を作成し、これを用いて犯罪行為を行った。原審(控訴審)は、一審判決に擬律錯誤があるとして破棄自判したが、その際、当該書面を「偽造文書」とは認定せず「虚偽の借用証書」として認定した。また、自判の手続きにおいて詳細な証拠説明を省略した。これに対し弁護人は、理由の齟齬および証拠説明の欠如を理由に上告した。
あてはめ
本件借用証書は内容が虚偽であるに留まり、作成権限の逸脱等の偽造概念に必ずしも含まれるものではない。したがって「虚偽の借用証書」と認定したからといって、当然に「偽造文書」と認定すべき理屈はなく、両者は論理的に矛盾しない。また、刑訴法400条但書に基づく擬律錯誤による自判は、法規適用の誤りを是正する手続であり、一審が認定した事実に変更がない以上、証拠の標目や説明を改めて判決書に記載する必要はない。
結論
原判決に理由の齟齬はなく、また証拠説明を欠く点も適法である。上告棄却。
実務上の射程
判決の理由齟齬の意義と、控訴審における破棄自判(擬律錯誤)の際の手続的簡略化を認めた事案である。答案上は、理由不備・齟齬が主張された際の反論の根拠として、事実認定と評価の論理的一貫性を基礎付ける際に参照し得る。
事件番号: 昭和34(あ)397 / 裁判年月日: 昭和35年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決書の証拠説明において明白な誤謬がある場合であっても、本来の趣旨に従って文意を読解すべきであり、その読解に基づいて判決の正当性を判断すべきである。 第1 事案の概要:被告人A、B、C、Dの各弁護人が量刑不当、判例違反、法令違反、事実誤認を理由に上告を申し立てた。特に被告人Bの弁護人は、原判決の理…