被告人及びその弁護人は、第一審において右犯罪事実を全部認めているのであり、検察官の右書面に対する証拠調については異議のない旨述べており、右証拠調の実施後においても、被告人も弁護人も何らの異議の申立をしていないのであるから、本件においては、被告人は右各書面を証拠とすることに同意したものと認めるのを相当とする。
証拠調に異議の申立をしなかつたことと証拠とすることの同意
刑訴法323条1号,刑訴法321条1項1号,刑訴法326条
判旨
被告人が犯罪事実を認め、検察官の証拠請求に対して異議がない旨を述べ、かつ証拠調べ実施後も異議を申し立てなかった場合には、当該書面を証拠とすることに同意したものと認められる。また、共犯者を含む相被告人の自白は、適法な証拠能力を有し、独立の証拠として用いることができる。
問題の所在(論点)
1. 証拠請求に対し「異議なし」と述べ、かつ事後も異議を申し立てなかった場合、刑訴法326条1項の「同意」があったと認められるか。2. 相被告人の自白には証拠能力が認められるか。
規範
刑事訴訟法326条1項にいう証拠とすることの「同意」は、必ずしも明示的な文言を要せず、被告人及び弁護人が犯罪事実を認めた上で検察官の証拠請求に対して異議がない旨を述べ、その後の手続でも異議を申し立てないといった一連の訴訟態様に基づき、黙示的に認められる。また、相被告人の自白は、それ自体に証拠能力が認められる。
重要事実
被告人Aは、贓物故買(現在の盗品等有償譲受け)の事実で起訴された。第一審において、A及びその弁護人は起訴事実を全面的に認めた。検察官が提出した各書面について、証拠調べの請求に対し「異議はない」旨を述べ、実際の証拠調べが実施された後も何ら異議を申し立てなかった。その後、上告審において、当該書面には証拠同意がなかったとして証拠能力を争った。また、相被告人Bの自白の証拠能力についても争われた。
あてはめ
1. 被告人Aは、第一審において犯罪事実を自白しており、検察官の証拠請求に対しても「異議なし」と明言している。証拠調べ実施後も長期間にわたり異議を述べていないことから、客観的にみて当該書面を証拠として採用することを受諾する意思があったと評価できる。2. 相被告人Bの自白については、当裁判所の判例(最大判昭和23年6月23日等)に照らし、憲法38条3項の「自己に不利益な唯一の証拠」には当たらず、適法な証拠能力を有する。加えて、本件ではB自身の自白以外にも補強証拠が存在し、証拠能力・証明力ともに認められる。
結論
1. 黙示の同意を肯定し、書面の証拠能力を認める。2. 相被告人の自白の証拠能力を肯定する。本件上告はいずれも棄却される。
実務上の射程
伝聞例外としての証拠同意(326条)の認定手法について、消極的な態度(異議なし)と他の訴訟行為(自白等)を総合して同意を認める実務上の指針となる。また、共犯者の供述を証拠とする際の基本的枠組みを示すものである。
事件番号: 昭和25(あ)2930 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
のみならず記録によると、第一審第六回公判期日において被告人及び弁護人は裁判官から証拠の証明力を争うことができる旨を告げられたのに対し別に争うことは無い旨陳述していることが認められる。されば所論証人Aの証言が伝聞証書であつたとしても刑訴三二六条により証拠能力を有するに至る。