文書偽造罪において行使の目的ありというには、何人かによつて真正な文書と誤信せられる危険あることを意識して文書を偽造するをもつて足りる。偽造者自らこれを行使する意思あることを要するものではない。
文書偽造罪における行使の目的
刑法155条,刑法159条
判旨
刑法上の文書偽造罪等における「行使の目的」とは、偽造された文書が真正なものとして公衆に誤信される危険を認識しつつ、自らまたは他人がこれを使用する意図があれば足りる。交付の相手方が偽造の事実を知っている場合であっても、その者がさらに真正なものとして行使することを知りつつ交付したならば、行使の目的が認められる。
問題の所在(論点)
文書偽造罪等の成立要件である「行使の目的」について、偽造した文書をその情を知っている者に交付する場合であっても、当該要件を満たすか。また、自ら行使する場合に限られるか。
規範
「行使の目的」とは、何人かによって真正な文書と誤信される危険があることを意識して、文書を偽造することをいう。偽造者自らが行使する意思があるか、他人をして行使させる意思があるかは問わない。したがって、文書を交付する相手方が偽造の情を知っていたとしても、その者がさらに真正なものとして行使することを認識していれば、本要件を充足する。
重要事実
被告人は、Aが証紙(文書)を真正なものとして行使することを知りながら、証紙を偽造し、これをAに交付した。A自身は当該証紙が偽造されたものであるという事情(情)を知っていたが、被告人はAがその後に第三者に対して真正なものとしてこれを使用することを認識・予見していた。
あてはめ
本件において、被告人はAが証紙を真正なものとして行使することを知りながら偽造を行っている。これは「他人をして行使せしめる意思」があるといえる。また、交付の相手方であるAが偽造の事実を知っていたとしても、Aがさらに別の場面で真正なものとしてこれを使用し、公共の信用の危険を惹起することを被告人が認識している以上、真正な文書と誤信される危険を意識しているといえる。したがって、客観的に真正なものとして供される蓋然性があり、主観的にもその認識があるため、「行使の目的」が認められる。
結論
被告人は行使の目的をもって証紙を偽造したものと認められ、偽造罪が成立する。
実務上の射程
「行使の目的」が「自ら行使すること」に限定されず、他人に行使させる「間接行使」の意図を含むことを明示した。また、相手方が悪意であっても、その先の行使を認識していれば足りる。答案上は、行使の目的を「真正なものとして流通・使用させる意思」と定義し、本判例を根拠に、直接の交付相手の善意・悪意にかかわらず、最終的に真正なものとして公衆の信頼を裏切る危険の認識があれば要件を充足すると論じる際に用いる。
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…
事件番号: 昭和41(あ)2151 / 裁判年月日: 昭和42年3月30日 / 結論: 棄却
公立高等学校の教諭である被告人が甲と共謀のうえ、偽造にかかる同高等学校長乙名義の甲の卒業証書を、真正に成立したものとして、甲の父丙に提示する行為は、単に丙を満足させる目的のみをもつてなされたとしても、偽造公文書行使罪にあたる。
事件番号: 昭和25(れ)1442 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
行使の目的を以て公文書の形式を偽り、一般人をして公務所若しくは公務員がその権限内において作成したものであると信ぜしめるに足る形式外観を具える文書を作成し、以て公文書の信用を害する危険を生ぜしめたときは他の記載事項欄が空白であつても公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…