いやしくも真正の文書として使用する目的で偽造せられた以上始めから情を知つた者に交付する場合でも行使の目的で文書を偽造したものに該当する。
刑法第一五九条第一項の適用
刑法159条1項
判旨
真正の文書として使用する目的で偽造された以上、当初から情を知っている者に交付する場合であっても、行使の目的で文書を偽造したものに該当する。
問題の所在(論点)
文書偽造罪の構成要件である「行使の目的」について、当初から偽造の事実を知っている者に交付する意図で偽造した場合であっても、当該目的が認められるか。
規範
刑法155条1項、159条1項等の文書偽造罪に規定される「行使の目的」とは、偽造された文書を真正なもの、または権限ある者により作成されたものとして他人に認識させる目的をいう。この「行使」には、偽造であることを知っている者に対して交付し、さらにその者から事情を知らない第三者へ真正な文書として提示・使用させる場合も含まれる。
重要事実
被告人が文書を偽造したが、その交付相手は偽造であることを当初から知っている者であった。弁護人は、情を知っている者に交付する場合には「行使の目的」が認められず、偽造罪は成立しないと主張して上告した。
事件番号: 昭和27(あ)4654 / 裁判年月日: 昭和28年12月25日 / 結論: 棄却
文書偽造罪において行使の目的ありというには、何人かによつて真正な文書と誤信せられる危険あることを意識して文書を偽造するをもつて足りる。偽造者自らこれを行使する意思あることを要するものではない。
あてはめ
本件において、被告人は文書を偽造しているが、その目的が「真正の文書として使用する目的」であるならば、たとえ直接の交付相手が偽造の情を知っている者であっても、法的な「行使の目的」を否定する理由にはならない。なぜなら、偽造罪の保護法益は文書に対する社会的な公共の信用であり、情を知る者を介して最終的に真正な文書として流通・使用される危険性がある以上、偽造の目的を肯定すべきだからである。
結論
偽造の情を知っている者に交付する場合であっても、「行使の目的」は認められ、文書偽造罪が成立する。
実務上の射程
文書偽造罪の「行使の目的」の定義を論じる際の最重要判例の一つである。答案では、交付の相手方が情を知っている場合(例えば共犯者への交付)であっても、その後の流通により公共の信用を害する蓋然性があれば「行使の目的」が認められるという文脈で使用する。本判決は、行使の意義を広く解する立場を明確にしている。
事件番号: 昭和31(あ)17 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
A法務社岸和田支局またはB地方法務新聞宇治山田支局各名義の各船舶登記証書を作成した場合においても、A法務社岸和田支局なる印の「社」およびB地方法務新聞宇治山田支局之印なる印の「新聞」という各文字の処を殊更に不鮮明に押捺し、各その形式外観によつて、一般人をしてA法務局岸和田支局またはB地方法務局宇治山田支局が権限により作…
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…
事件番号: 昭和28(あ)2010 / 裁判年月日: 昭和29年4月15日 / 結論: 棄却
一 文書偽造罪における行使の目的は、必ずしも本来の用法に従つて、これを真正なものとして使用することに限るものではなく、真正な文書としてその効用に役立たせる目的があれば足りる。 二 公文書とは、公務所又は公務員がその名義をもつてその権限内において所定の形式に従い作成すべき文書を指し、実生活に交渉を有する事項の証明又は権利…
事件番号: 昭和27(あ)6146 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯が成立するためには、事前の打合せや意思の連絡が必要であり、これらが認められない場合には単独犯として処理されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は、共犯者が存在する共犯事件であると主張して上告したが、原審(または記録上)では、当該事件において当事者間での事前の打合せ等は認められず、そ…