一 文書偽造罪における行使の目的は、必ずしも本来の用法に従つて、これを真正なものとして使用することに限るものではなく、真正な文書としてその効用に役立たせる目的があれば足りる。 二 公文書とは、公務所又は公務員がその名義をもつてその権限内において所定の形式に従い作成すべき文書を指し、実生活に交渉を有する事項の証明又は権利、義務に関する内容を有することを要するものではない。
一 文書偽造罪における行使の目的の意義 二 公文書の意義
刑法155条1項,刑法156条,刑法158条1項
判旨
文書偽造罪における「行使の目的」は、本来の用法に従い使用することに限られず、真正な文書としてその効用に役立たせる目的があれば足りる。また、公文書は公務所等が権限内かつ所定の形式で作成すべき文書を指し、実生活上の証明や権利義務に関する内容を要しない。
問題の所在(論点)
1.文書の本来の用途以外に使用する目的が、刑法156条(および155条等)の「行使の目的」に該当するか。2.特定の権利義務や事実証明に関わらない内部的な保存資料が、偽造罪の客体である「公文書」に該当するか。
規範
1.「行使の目的」とは、必ずしもその文書本来の用法に従って使用することに限られず、いやしくも真正な文書としてその効用に役立たせる目的があれば足りる。2.「公文書」とは、公務所又は公務員がその名義をもってその権限内において所定の形式に従い作成すべき文書を指し、実生活に交渉を要する事項の証明や権利・義務に関する内容を有することまでは要しない。
重要事実
広島市選挙管理委員会の職員である被告人らは、投票通知書(または投票通知再交付書)を作成した。この文書は、本来は選挙管理委員会が投票期日までに選挙人に交付すべき入場券に代わるべきものである。しかし、被告人らには本来の用途に供する目的はなく、選挙人が投票期日に出頭し投票したことを証する資料として委員会が保存すべき文書として使用する目的で、委員会の署名を使用して判示文書を作成した。
事件番号: 昭和31(あ)153 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)の客体である「公務員がその職務に関し作成すべき文書」とは、公務員が職務権限に基づき作成する文書全般を指し、その内容や形式は限定されない。 第1 事案の概要:被告人が関与した特定の文書(本件文書)について、これが刑法156条に規定される「公務員の職務に関する文書」に該…
あてはめ
1.被告人らには、本件文書を「投票の証憑資料」として保存・使用させる目的があった。これは、文書を真正なものとしてその効用に役立たせる目的にほかならず、本来の「入場券」としての用法でなくても「行使の目的」が認められる。2.本件文書は、選挙管理委員会の職員が職責に基づき同委員会の名義で作成したものであり、公務所が権限内で形式に従い作成したものといえる。したがって、実生活上の権利義務等に直接関わる内容でなくとも「公文書」に該当する。
結論
被告人らの行為は、刑法156条(虚偽公文書作成罪)の構成要件を充足し、同罪が成立する。
実務上の射程
行使の目的を「効用一般」へと広く解し、公文書の定義を「形式的作成権限」に重点を置いて解釈した。内部的な決裁文書や保存資料であっても、真正なものとして公務の過程に置く目的があれば、偽造・虚偽作成罪が成立しうることを示す射程の長い判例である。
事件番号: 昭和28(あ)1670 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
物品税証紙は刑法第一五五条第三項の文書に該当する。
事件番号: 昭和30(あ)3708 / 裁判年月日: 昭和33年4月11日 / 結論: 棄却
村長がその名義の内容虚偽の公文書を作成した場合は、それが専ら第三者の利をはかる等不法な意思に出でその職務権限の乱用と認められる場合であつても、刑法第一五六条の罪が成立し、同法第一五五条の罪が成立するものではない
事件番号: 昭和40(あ)2687 / 裁判年月日: 昭和41年4月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】戸籍の作成行為について、被告人らに行使の目的がない場合には、公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)等は成立しない。 第1 事案の概要:被告人および相被告人Aは、不実の内容を含む原戸籍を作成する行為に及んだが、当該戸籍の作成行為については、被告人らにおいて「行使の目的」が存在していなかった。原判…
事件番号: 昭和38(あ)907 / 裁判年月日: 昭和39年8月28日 / 結論: 破棄差戻
刑法第一五五条第一項にいわゆる公務所または公務員の作るべき文書とは、公務所又は公務員が印章若しくは署名を使用しその権限内において職務執行上作成すべき文書を汎称し、その職務執行の方法範囲が法令に基づくと内規又は慣例によるとを問わないものと解すべきである(昭和一二年七月五日大審院判決、刑集一六巻一一七六頁・明治四五年四月一…