公立高等学校の教諭である被告人が甲と共謀のうえ、偽造にかかる同高等学校長乙名義の甲の卒業証書を、真正に成立したものとして、甲の父丙に提示する行為は、単に丙を満足させる目的のみをもつてなされたとしても、偽造公文書行使罪にあたる。
偽造公文書行使罪にあたるとされた事例
刑法158条1項
判旨
偽造公文書を、その情を知らない親族等に対して真正なものとして提示する行為は、公文書に対する社会的な公共の信用を害する危険があるため、偽造公文書行使罪(刑法158条1項)を構成する。
問題の所在(論点)
偽造された公文書を、官公署や公的な手続に関係のない私的な親族(父)に対して提示する行為が、偽造公文書行使罪における「行使」に該当するか。
規範
偽造公文書行使罪(刑法158条1項)における「行使」とは、偽造された公文書を、真正な文書として他人(その内容を信じさせるべき相手方)に提示し、または閲覧に供することをいう。相手方が当該文書の内容を認識し得る状態に置くことで足り、必ずしも公共の事務に関する相手方である必要はない。
重要事実
被告人は、共犯者Cと共謀の上、福岡県立A高等学校長B名義のCの卒業証書を偽造した。被告人らは、この偽造された卒業証書を、Cの父であるDに対し、あたかも真正に成立したものとして提示した。
事件番号: 昭和27(あ)4654 / 裁判年月日: 昭和28年12月25日 / 結論: 棄却
文書偽造罪において行使の目的ありというには、何人かによつて真正な文書と誤信せられる危険あることを意識して文書を偽造するをもつて足りる。偽造者自らこれを行使する意思あることを要するものではない。
あてはめ
被告人らは、偽造にかかる高校の卒業証書を、Cの父Dに対し、真正なものとして提示している。行使罪の保護法益は文書に対する社会的な公共の信用であるところ、たとえ相手方が親族であっても、偽造文書を真正なものとして認識させる態様で提示する以上、文書の信用性を害する危険が発生したといえる。したがって、本件提示行為は「行使」の要件を充足する。
結論
被告人の行為は、偽造公文書行使罪に該当する。
実務上の射程
本判決は、公文書行使罪の「行使」の相手方を限定せず、私的な関係にある者への提示も含むことを示した。答案上、相手方が公務員や取引相手でない場合でも、真正な文書として利用する意思で提示していれば、行使罪の成立を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…
事件番号: 昭和31(あ)17 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
A法務社岸和田支局またはB地方法務新聞宇治山田支局各名義の各船舶登記証書を作成した場合においても、A法務社岸和田支局なる印の「社」およびB地方法務新聞宇治山田支局之印なる印の「新聞」という各文字の処を殊更に不鮮明に押捺し、各その形式外観によつて、一般人をしてA法務局岸和田支局またはB地方法務局宇治山田支局が権限により作…
事件番号: 昭和31(あ)153 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)の客体である「公務員がその職務に関し作成すべき文書」とは、公務員が職務権限に基づき作成する文書全般を指し、その内容や形式は限定されない。 第1 事案の概要:被告人が関与した特定の文書(本件文書)について、これが刑法156条に規定される「公務員の職務に関する文書」に該…