判旨
上告趣意において以前の審級に提出した書面を単に引用する手法は、刑事訴訟法上の適法な上告趣意の提示として認められない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法第405条等に基づき上告趣意を述べる際、以前の審級に提出した書面の記載を単に引用する手法が、適法な上告趣意の提示といえるか。
規範
上告趣意書は、上告審の審判対象を明確にするため、当該審級において具体的に主張を記載すべきものである。したがって、第一審の弁論上申書や原審(控訴審)の控訴趣意書の内容を単に引用するにとどまる記述は、適法な上告趣意として採用することはできない。
重要事実
被告人は窃盗および食糧管理法違反の罪で起訴され、第一審判決およびそれを是認した原判決において有罪とされた。弁護人は上告趣意書において、第一審で提出した弁論上申の要旨や、原審で提出した控訴趣意書の記載を引用する形で、証拠の取捨選択や事実認定の不当性を主張した。
あてはめ
弁護人は、本件鍵による金庫開閉の不能性や事実誤認を主張する際、以前の審級で提出した「弁論上申の要旨」や「控訴趣意書」の記載を引用した。しかし、上告審は法律審であり、原判決の当否を厳格に審査する場であるから、書面の引用のみで具体的な主張を代用することは、上告理由を自ら具体的に提示したことにはならない。よって、このような引用形式による主張は、適法な上告趣意とは認められない。
結論
以前の審級の書面を引用するだけでは適法な上告趣意とならず、本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟実務において上告趣意書を作成する際、手間を省く目的で控訴趣意書等を流用・引用する手法が認められないことを示した。答案上、上告受理の申立てや上告趣意の具体的記載義務の文脈で、手続的適法性の要件として言及し得る。
事件番号: 昭和25(あ)2044 / 裁判年月日: 昭和26年9月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本決定は、被告人の上告について、刑事訴訟法405条所定の上告理由に当たらないとし、かつ同法411条の職権破棄事由も認められないとして棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人が原判決を不服として上告を申し立てた事案。弁護人が提出した上告趣意書に基づき、上告理由の存否および職権破棄事由の有無が検…
事件番号: 昭和27(あ)6688 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の証拠が存在する場合、そのうち一部の証拠に証拠能力等の欠陥があったとしても、他の証拠によって犯罪事実を十分に認定できるのであれば、判決に影響を及ぼす違法はない。 第1 事案の概要:被告人が窃盗の罪に問われた事案において、第一審判決は証人Aの証言を含む複数の証拠を挙げて有罪を認定した。弁護人は、…