判旨
強姦罪(現・強制性交等罪)の実行の着手は、強姦の意思をもって、被害者の抗拒を著しく困難ならしめる程度の暴行または脅迫を開始した時点において認められる。
問題の所在(論点)
強姦罪(刑法177条、現・強制性交等罪)における実行の着手時期、およびその判断基準としての暴行・脅迫の程度が問題となる。
規範
強姦罪の実行の着手は、強姦の意思をもって、その手段として被害者の抗拒を著しく困難ならしめる程度の暴行または脅迫を加えたときに認められる。
重要事実
被告人は、田圃で草取りをしていたAを目撃して劣情を催し、姦淫しようと考え、Aの手首や肩を掴んで約15メートル離れたくぼ地に引きずり込んだ。さらに「大声を出しても駄目だ、俺の言うままにならなければ殺してしまうぞ」などと脅迫し、無理やり腰を下ろさせ、肩を押して横倒しにしたり、頭髪を引っ張る等の暴行を加えた。しかし、Aが抵抗して逃げ去ったため、姦淫の目的を遂げなかった。
あてはめ
被告人は強姦の確定的な意思を有しており、被害者を人目に付かない場所へ引きずり込む行為や、「殺す」といった生命に対する脅迫、さらには横倒しにする等の暴行を行っている。これらの態様は、被害者の抗拒を著しく困難ならしめる程度に至っているといえる。したがって、当該暴行・脅迫を開始した時点で強姦罪の実行の着手が認められる。
結論
被告人の行為は強姦未遂罪(現・強制性交等未遂罪)を構成する。
実務上の射程
本判決は、性的自由に対する罪における実行の着手時期を明確にしたものである。答案上は、単なる暴行ではなく「姦淫(性的行為)に向けられた暴行・脅迫」であることを摘示した上で、それが「抗拒不能」または「抗拒を著しく困難」にする程度に達したかを具体的事実から認定する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和27(あ)5845 / 裁判年月日: 昭和29年3月30日 / 結論: 棄却
強姦未遂の際において加えられた暴行であつても検察官が単純なる暴行として起訴し、処罰したのは検察官も所論原判示二、三の行為については強姦の手段としての暴行と迄は認めなかつたのであり、裁判所もこれに従つたものと見なければならない。