一 被告人は婦女を誘惑して郊外に連れ出し、午後一〇時過頃、人家も稀れなお寺の境内に連れ込み、同所で同女を強姦しようと企て、突然同女の首を締めて境内の方へ押すようにしながら「大きな声をするな殺して逃げてしまえばそれまでだ」と申し向けて脅迫したというのであるから、たとい被告人に所論の如くいまだ猥褻行為に出でんとした直接の姿態がなかつたとしても、これを以て強姦の実行に着手したものというに妨げない。 二 刑訴応急措置法の適用される事件については、地方検察庁の検察事務官にも告訴を受理する権限がある。
一 強姦の実行着手時期 二 地方検察庁検察事務官の告訴受理権
刑法177条,刑法179条,旧刑訴法272条,刑訴応急措置法19条,検察庁法27条
判旨
強姦罪の実行の着手は、直接的な猥褻行為に至らなくとも、強姦の目的で相手方の反抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を開始した時点で認められる。
問題の所在(論点)
強姦罪において、直接的な猥褻行為に及んでいない段階で、暴行・脅迫を開始したことをもって実行の着手(刑法43条)を認めることができるか。
規範
強姦罪(現行刑法177条の強制性交等罪に相当)の実行の着手は、必ずしも直接猥褻な行為に着手していることを要しない。強姦の意図をもって、相手方の反抗を抑圧ないし著しく困難にするに足りる程度の暴行または脅迫を開始したと認められる場合には、同罪の実行の着手があったと解するのが相当である。
重要事実
被告人は婦女を誘惑して郊外の人家の稀な寺院の境内に連れ込み、強姦しようと企てた。被告人は、被害者の首を締めて境内の方へ押し込みながら、「大きな声を出すな、殺して逃げてしまえばそれまでだ」と申し向けて脅迫を加えたが、この時点ではまだ直接的な猥褻行為(衣服を脱がせる、身体に触れる等)には及んでいなかった。
あてはめ
被告人は、強姦の目的を遂げるべく、深夜の寺院境内という孤立した場所において、被害者の首を絞めるという生命の危険を感じさせる暴行を加え、かつ殺害を予告する強烈な脅迫を行っている。これらの行為は、被害者の反抗を抑圧し強姦を完遂するための密接な行為といえる。したがって、たとえ直接的な猥褻行為という「直接の姿態」がなかったとしても、強姦の既遂結果発生に至る客観的な危険性を有する暴行・脅迫が開始されたと評価できる。
結論
被告人の行為は強姦罪の実行の着手に該当し、強姦未遂罪が成立する。
実務上の射程
実行の着手時期に関し、構成要件的結果発生に至る「密接な行為」があれば足りるとする判例の立場を示す基本的射程を持つ。強制性交等罪(現行法)の答案においても、暴行・脅迫が先行する事案における着手時期の判断基準として引用可能である。
事件番号: 昭和27(あ)5845 / 裁判年月日: 昭和29年3月30日 / 結論: 棄却
強姦未遂の際において加えられた暴行であつても検察官が単純なる暴行として起訴し、処罰したのは検察官も所論原判示二、三の行為については強姦の手段としての暴行と迄は認めなかつたのであり、裁判所もこれに従つたものと見なければならない。