被害者が檢事に對し「告訴はしません」という語句を使用しても、その陳述全體の趣旨が犯罪事實を申告するとともに犯人の處罰を望むものであるときは、親告罪の告訴として有効である。
親告罪における告訴
刑訴法272條,刑訴法273條1項
判旨
告訴の効力は、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示が含まれているか否かによって実質的に判断される。被害者が法律的知識の欠如から「告訴はしないが厳重に処罰してほしい」と述べた場合であっても、処罰を求める明確な意思があるならば告訴の存在を認めることができる。
問題の所在(論点)
親告罪において、被害者が「告訴はしないが、厳重な処罰を求める」と矛盾する供述をした場合、告訴の存在(訴訟条件の具備)を認めることができるか。
規範
告訴(刑事訴訟法230条以下)とは、捜査機関に対し犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をいう。その形式は問われず、供述全体から実質的に犯人の処罰を求める意思が認められるか否かによって判断すべきである。特に、被害者が「告訴」という法律用語の意義を誤解して否定的な表現を用いたとしても、処罰を求める真意が認められる場合には告訴の効力を肯定しうる。
重要事実
被告人は強姦未遂の罪に問われたが、本罪は当時の刑法180条により親告罪であった。被害者は警察及び検察に対し、「教員という身分があり世間に広まるのが心配なので告訴の意思はない」としつつも、「男の行為を真に恨んでおり、いかようにも処分してほしい」「厳重に処罰してほしい」と供述した。また、後の公判において、被害者は「告訴の意味が単に処罰を望むことであるなら、当初から告訴する趣旨であった」旨を釈明した。弁護人は、当初の「告訴せず」との明示的な供述に基づき、公訴棄却(旧刑訴法364条1号)を主張して上告した。
事件番号: 昭和26(れ)755 / 裁判年月日: 昭和26年7月12日 / 結論: 棄却
告訴ありとするには、被害者から、司法警察員又は検察官に対し犯罪事実につき犯人の処罰を求める旨の意思表示あるを以て足りるものであり、そして、検察官のAに対する聴取書中の供述記載によれば、同女は検察官に対しかかる処罰を求める意思表示をしたことを認めることができる。されば、判示第三の事実につき告訴の要件を充している。
あてはめ
被害者の供述書によれば、「相手の男に対して厳重に処罰を願いたい」との意思が明確に表示されている。これは告訴の本質である「犯人の処罰を求める意思表示」に他ならない。被害者が「告訴はしない」と述べた点は、法律知識の不足により「告訴」を何か特別な法的手段であると誤解していたためであり、被害者の立場上、事件の公表を恐れる心情から出た表現に過ぎない。公判での釈明供述を合わせれば、被害者の真意は当初から処罰を求める点にあったと認められる。したがって、起訴前の検察官に対する供述は、実質的に有効な告訴としての性質を備えているといえる。
結論
被害者の供述には犯人の処罰を求める意思が含まれているため、有効な告訴があったと認められる。したがって、訴訟条件は具備されており、有罪とした原判決に違法はない。
実務上の射程
被害者の「告訴しない」という言葉のみに拘泥せず、処罰感情の有無から実質的に判断する実務上の指針。答案上は、告訴の定義を「処罰を求める意思表示」とした上で、被害者の法的無知や供述の文脈を理由として、形式的な言葉の否定を排し告訴を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)2213 / 裁判年月日: 昭和29年1月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟において、書面(上申書等)の提出が直ちに告訴の取消しを意味するものではなく、その内容や趣旨が告訴の取消しに該当するか否かは、事実認定の問題として証拠に基づき判断される。 第1 事案の概要:被告人が親告罪に問われた事案において、弁護人は「上申書」が提出されたことをもって、本件告訴は既に取り消…