被告人が、外一名と共謀のうえ、夜間一人で道路を通行中の婦女を強姦しようと企て、共犯者とともに、必死に抵抗する同女を被告人運転のダンプカーの運転席に引きずり込み、発進して同所から約五、八〇〇メートル離れた場所に至り、運転席内でこもごも同女を強姦した本件事実関係(判文参照)のもとにおいては、被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした時点において強姦罪の実行の着手があつたものと解するのが相当である。
自動車により婦女を他所へ連行したうえ強姦した場合につき婦女を自動車内に引きずり込もうとした時点において強姦罪の実行の着手があるとされた事例
刑法43条,刑法177条,刑法179条
判旨
強姦罪の実行の着手は、強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められる暴行が開始された時点で認められる。また、その際の暴行により全治10日程度の打撲傷を負わせた場合、強姦致傷罪が成立する。
問題の所在(論点)
強姦の目的で、被害者をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした段階において、強姦罪の実行の着手(刑法43条、当時の刑法177条)が認められるか。また、その際に生じた全治10日の打撲傷は強姦致傷罪(当時の刑法181条)の傷害に該当するか。
規範
実行の着手(刑法43条前段)は、構成要件的結果発生の直接的危険を有する行為を開始したときに認められる。強姦罪(現・強制性交等罪)においては、姦淫のための暴行・脅迫を開始し、その行為によって強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められる段階に至った場合に実行の着手が認められる。
重要事実
被告人と友人Aは、女性と情交を結ぶ意図でダンプカーを走行中、通行人の女性Bを認め、尾行を開始した。AがBを背後から抱きすくめて車前まで連行し、被告人はAの強姦の意思を察知して共謀を遂げた。被告人とAは、必死に抵抗するBをダンプカーの運転席に無理やり引きずり込み、その後、約5キロ離れた工事現場まで走行してBを姦淫した。Bは、運転席に引きずり込まれる際の暴行により、全治約10日間を要する左膝蓋部打撲症等の傷害を負った。
あてはめ
被告人とAが、姦淫の目的で必死に抵抗する被害者をダンプカーの運転席内に引きずり込もうとした行為は、その後に予定されている姦淫行為に密接に関連する暴行である。この段階において、既に強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるため、実行の着手があったといえる。また、その暴行によって生じた全治約10日間の打撲傷は、生理的機能を毀損するものとして傷害に該当する。したがって、暴行と傷害の因果関係も認められ、強姦致傷罪の構成要件を充足する。
結論
被告人が被害者を車内に引きずり込もうとした時点で強姦罪の実行の着手があり、その際の暴行により傷害を負わせた以上、強姦致傷罪が成立する。
実務上の射程
強姦致傷罪の着手時期について、姦淫の場所(工事現場)に移動する前の「車内への引きずり込み」の段階で肯定した事例である。密接性・危険性の観点から、犯行場所への連行行為そのものが暴行として着手と評価されうることを示しており、致死傷の結果が着手後の暴行から生じていることを論証する際に有用である。
事件番号: 昭和27(あ)3591 / 裁判年月日: 昭和28年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強姦罪(現・強制性交等罪)の実行の着手は、強姦の意思をもって、被害者の抗拒を著しく困難ならしめる程度の暴行または脅迫を開始した時点において認められる。 第1 事案の概要:被告人は、田圃で草取りをしていたAを目撃して劣情を催し、姦淫しようと考え、Aの手首や肩を掴んで約15メートル離れたくぼ地に引きず…
事件番号: 昭和41(あ)2135 / 裁判年月日: 昭和42年2月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車を用いて監禁し、その車内等で暴行・脅迫を加えて強姦・致傷に至った場合、監禁行為と強姦致傷行為はそれぞれ独立した行為として評価され、監禁罪と強姦致傷罪(当時)の併合罪となる。 第1 事案の概要:被告人は、被害者を自動車に押し込み、不法に監禁した。その後、車内等において強姦の目的で別途暴行および…