判旨
権利行使を名目とする行為であっても、その前提となる返還請求権等の権利の存在が認められない場合には、自救行為等の違法性阻却事由を検討する余地はなく、犯罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
権利行使を名目として行われた行為について、前提となる権利の存在が否定される場合に、なお権利行使として違法性が阻却される余地があるか。
規範
権利の行使として行われた行為が違法性を阻却するか否かは、まずその前提となる権利(返還請求権等)が客観的に存在することを要する。権利の存在が認められない以上、その行使を名目とした行為は、正当な権利行使としての保護を受けることはできない。
重要事実
被告人は、自身に目的物の返還請求権があるとし、その権利行使として本件行為(具体的な罪名は判決文からは不明だが、文脈上、窃盗や強盗、恐喝等の財産犯と推認される)に及んだ。しかし、第一審および原審において、被告人にそのような返還請求権があるという事実は認められなかった。被告人はこれを不服として、権利行使である以上違法性が阻却される旨を主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人は自己に返還請求権があると主張するが、事実認定によればそのような権利は存在しない。権利行使による違法性阻却の主張は、正当な権利の存在を前提とするものであるところ、本件ではその前提を欠いている。したがって、被告人の行為は、権利の行使としての実体を有さず、その違法性が阻却されることはない。
結論
本件上告を棄却する。被告人に権利が認められない以上、権利行使を理由とする違法性阻却の主張は採用できない。
実務上の射程
自救行為や権利行使の事案において、司法試験の答案上では「権利の存在」「手段の相当性」の二段構えで検討する。本判例は、第一段階である「権利の存在」が否定された場合には、もはや手段の相当性を検討するまでもなく違法性が阻却されないことを示す。権利の存否が争点となる財産犯の設問において、事実認定の結果、権利がないと結論付けた際のダメ押しとして引用できる。
事件番号: 昭和27(あ)2941 / 裁判年月日: 昭和27年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利行使の手段として行われた恐喝行為について、事実審において権利の存在や行使の事実が主張されていない場合には、裁判所は権利行使の正当性について判断を要しない。 第1 事案の概要:被告人が恐喝の罪で起訴された事案において、弁護人は上告審において「被害者から財物又は財産上の利益を受けるべき権利があり、…