被告人はA診療所長として他人の所有する麻薬を業務上保管していた者であり、しかもこれを医師たる同診療所長として同診療所における正規の医療行為のためにのみ使用する権限を有するに過ぎず、これを自己又は妻の麻薬中毒症状緩和のため自宅に持ち帰ることは同診療所長の権限内の行為でなかつたというのであるから、被告人が判示のように麻薬を自宅に持ち帰つたことは業務上横領罪となること原判決の説明するとおりである。
麻薬管理者として麻薬を業務上保管する者が権限外の目的のために搬出使用した所為の擬律
麻薬取締法2条10号,刑法253条
判旨
診療所長が業務上保管する他人の麻薬を、正規の医療行為以外の目的で自宅に持ち帰る行為は、保管の権限を逸脱するものであり業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
診療所長が業務上保管する麻薬を、自己の目的のために自宅に持ち帰る行為が、業務上横領罪の「横領」に該当するか。特に、保管権限の範囲とその逸脱の有無が問題となる。
規範
業務上横領罪(刑法253条)における「不法領得の意思」の現れとしての「横領」とは、自己の占有する他人の物を、その委託の趣旨に反して、権限なく所有者でなければできないような処分をする意思で、その処分を外部から認識し得る態様で実行することをいう。
重要事実
被告人はA診療所の所長であり、他人が所有する麻薬を業務上保管する立場にあった。被告人は、当該麻薬を診療所における正規の医療行為のためにのみ使用する権限を有していたが、自己および妻の麻薬中毒症状を緩和させる目的で、当該麻薬を自宅に持ち帰った。
事件番号: 昭和25(あ)3297 / 裁判年月日: 昭和27年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における「領得」とは、不法に領得する意思が外部に表現される行為を指し、会社倉庫から薬品類を不法に持ち出す行為はこれに該当する。 第1 事案の概要:被告人は、会社に勤務し同社の物品を管理・占有する立場にあったが、不法にこれを領得する意思をもって、会社倉庫内に保管されていた薬品類を無断で外部に搬…
あてはめ
被告人は診療所長として麻薬を保管していたが、その使用権限は「正規の医療行為」に限定されていた。自己や親族の中毒症状緩和という私的目的で麻薬を自宅に持ち出す行為は、委託の趣旨に明らかに反しており、本来の権限外の所為である。したがって、この持ち出し行為は、排他的に所有者としての利益を享受しようとする意思に基づく処分行為であり、横領にあたると評価される。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成する。したがって、有罪とした原判決に判例違背はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、業務上の占有者が一定の目的・範囲内で処分権限を与えられている場合であっても、その範囲を逸脱して私的に費消・領得する行為が横領罪となることを示している。答案作成上は、単なる物理的な所持の移転だけでなく、その行為が「委託の趣旨」および「与えられた権限」の範囲内か否かを事実から具体的に抽出して論ずる際の根拠となる。
事件番号: 昭和27(あ)874 / 裁判年月日: 昭和28年6月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上自己の保管下にあるガソリンタンクから、ガソリンを抜き取って売却する行為は、他人の占有を侵害する窃盗罪ではなく、業務上占有する物を不法に領得するものとして業務上横領罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人等は、業務としてガソリンタンクの管理・保管に従事していた。被告人等は、その保管中のガソリン…