判旨
物の所持は、保管の意思をもって実力支配関係を実現することで開始され、一旦開始されれば、常にその存在を意識していなくとも、保管の実力支配関係が持続されていることを客観的に表明するに足る容態がある限り存続する。したがって、対象物の存在を一時的に忘却していたとしても、直ちに所持が失われるものではない。
問題の所在(論点)
禁制物等の「所持」の成否において、所持人が一時的にその物の存在を失念していた場合、所持の継続性が否定されるか。
規範
物の所持が成立・存続するためには、保管する意思をもって対象物に対し実力支配関係を実現することを要する。一度所持が開始された後は、所持人が常にその物の存在を意識している必要はなく、その人と物との間に保管の実力支配関係が持続されていることを客観的に表明するに足る容態があれば、所持の継続が認められる。
重要事実
被告人は麻薬を所持していたところ、その後、当該麻薬の存在を忘れていたと主張した。また、被告人は妻に当該麻薬の廃棄を命じ、妻もこれを承知していたため支配関係が終了していたとも主張したが、原審は廃棄の指示に関する事実を証拠上認められないとして排斥した。このため、忘却によって所持の成否が左右されるかが争点となった。
あてはめ
本件において、被告人は当初保管の意思をもって麻薬に対する実力支配を開始しており、所持が成立していた。その後、被告人が麻薬の存在を忘れていたとしても、客観的に見て被告人と麻薬との間の支配関係(保管の容態)が断絶したといえる特段の事情がない限り、支配関係は持続していると評価される。被告人が主張する廃棄の指示という支配脱却の事実は認められない以上、依然として被告人の支配下にあるという客観的容態は維持されているといえる。
結論
被告人が麻薬の存在を忘れていたとしても、所持の存続を認定することの妨げとはならず、麻薬取締法違反(所持)が成立する。
実務上の射程
本判例は「所持」の継続性に関する主観的・客観的要素を整理したものである。答案上では、所持の定義(場所的・時間的支配関係)を論じる際、失念や忘却があった場合でも客観的な支配可能性(管理状況、場所的近接性等)を重視して所持を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)3021 / 裁判年月日: 昭和27年2月21日 / 結論: 棄却
麻薬取締法の規定にいわゆる所持には第一審判決の判示のような販売する目的での所持は勿論、利益をうる意思なき者の所持をも包含すると解すべきことはいうまでもないところである。