判旨
裁判所が証拠調べ手続の開始前に被告人に対して犯罪事実に関する質問を行うことは、黙秘権を侵害するような不当な圧迫にわたらない等の合理的な範囲内であれば、直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
証拠調べ手続開始前に裁判官が被告人に対して犯罪事実に関する質問を行うことが、被告人訊問制度の廃止や黙秘権(憲法38条1項、刑訴法311条1項)の趣旨に反し、刑事訴訟手続として違法となるか。
規範
被告人に対する質問は、被告人の供述の自由(黙秘権)を実質的に侵害し、または裁判の公平を疑わせるような態様でない限り、訴訟進行上の必要性から許容される。具体的には、公訴事実の認否を確認し、争点を明確にするために必要な限度での質問は、新刑事訴訟法下においても適法である。
重要事実
第一審裁判所において、証拠調べ手続に入る前の段階で、裁判官が被告人に対し、起訴状に記載された犯罪事実について詳細な質問を行った。これに対し弁護人は、被告人訊問制度が廃止された現行刑事訴訟法の規定に違反する手続違背であるとして上告した。
あてはめ
本件における裁判官の質問は、先行する大法廷判決の趣旨に照らし、許容される範囲内のものと判断される。証拠調べ前の段階であっても、被告人に対して事案の認否を問い、争点を整理するための質問を行うことは、審理を円滑かつ適正に進めるために必要な訴訟指揮の範囲内といえる。したがって、被告人の供述拒否権を不当に侵害するなどの特段の事情がない限り、違法とは解されない。
結論
本件における程度の質問は違法ではなく、刑事訴訟法上の規定に違反しない。
実務上の射程
裁判所による被告人への質問(いわゆる釈明や争点整理のための質問)の限界を示す。実務上は、冒頭手続における権利告知後の認否確認や、争点整理の局面で裁判官が質問を行う際の適法性を支える根拠として機能する。
事件番号: 昭和27(あ)546 / 裁判年月日: 昭和28年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に反対尋問の機会が与えられた証人について、公判供述ではなく検察官面前調書の記載を証拠として採用し事実認定の資料とすることは、裁判所の適法な証拠の取捨選択の範囲内である。 第1 事案の概要:被告人Bは、証人Cに対する第一審での証拠調べにおいて反対尋問の機会を与えられていた。しかし、原審および第…
事件番号: 昭和26(れ)330 / 裁判年月日: 昭和28年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠調べの範囲および限度は、事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられており、特定の証人の尋問請求を却下したとしても、直ちに違法となるものではない。 第1 事案の概要:被告人が詐欺等の罪に問われた事案において、第一審および原審(控訴審)は、弁護人が請求した証人の尋問を却下した。これに対し弁護人側は、詐取…
事件番号: 昭和24(れ)238 / 裁判年月日: 昭和24年11月30日 / 結論: 棄却
一 裁判が迅速を欠いたかどうかということは場合によつては係官の責任の問題を生ずるかも知れないけれども、そのため判決破毀の理由となるものではないこと當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第一〇七一號事件昭和二三年一二月二二日大法廷言渡判決) 二 所論憲法上の權利は被告人が自ら行使すべきもので裁判所、檢察官等…