判旨
暴行脅迫を伴う殴り合いの喧嘩を制止し、加害者を逮捕しようとする警察官の行為は、公務執行妨害罪における適法な職務執行にあたる。
問題の所在(論点)
殴り合いの喧嘩を制止・逮捕しようとする警察官の行為が、公務執行妨害罪の保護対象となる「適法な職務執行」にあたるか。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)の要件である「職務の執行」が「適法」であるためには、当該公務員がその抽象的・具体的権限を有し、かつ法令の定める有効な手続・方式を遵守していることを要する。暴行を伴う現行犯状況下における制止および逮捕行為は、警察官の職務権限に基づく適法な公務である。
重要事実
被告人を含む3名の者が、路上で日本人3、4名と殴打し合う喧嘩をしていた。通報を受けて制服制帽姿で駆けつけた巡査は、喧嘩の制止および逮捕に着手したが、被告人らが巡査の胸倉を突き、あるいは左頬を殴打するなどの暴行を加えたため、職務執行が妨害された。弁護人は、喧嘩の制止・逮捕が適法な職務執行にあたらないと主張して上告した。
あてはめ
本件における「喧嘩」の実態は、暴行脅迫を伴う殴り合いであり、犯罪(暴行罪・傷害罪等)の現行犯状況に近い。このような状況下で、制服姿の巡査が喧嘩の現場に割って入り、制止すると同時に被告人らを逮捕しようとした行為は、警察官としての適法な職務執行の範囲内にある。したがって、これに対して暴行を加える行為は、適法な職務執行を妨害するものと評価される。
結論
警察官の行為は適法な職務執行であり、これに暴行を加えた被告人らには公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、公務の適法性判断において、現場の具体的状況(暴行の存否)を重視する姿勢を示している。答案上は、職務執行の適法性が争点となる際、警察官の介入が犯罪の予防・制止という正当な職務権限に基づくものであることを基礎付ける事実(殴り合いの存在等)を指摘する際に活用できる。
事件番号: 昭和59(あ)1036 / 裁判年月日: 平成元年3月9日 / 結論: 破棄自判
罵声を浴びせながら一方的に抗議する過程において、丸めた紙を相手方の顔面付近に突きつけてその先端をあごに触れさせ、相手方の座つているいすを揺さぶつた行為及び相手方がいすから立ち上がるのを阻止するためその手首を握つた行為は、いずれも公務執行妨害罪にいう「暴行」に当たる。