集団の一員が、警備中の警察官に暴行を加えてその職務の執行を妨害するとともに傷害を負わせ、右集団にまぎれ込んだ場合において、右犯人を探索して検挙するため、歩行中の右集団を六、七分間にわたり停止させた本件警察官の行為は、当時、犯罪発生後間がなく、かつ、被害警察官が犯人の人相特徴を明確に記憶しているなど犯人検挙の可能性がきわめて高い状況にあり、また、集団が四散する直前で、犯人検挙のためには直ちに集団を停止させてその四散を防止する緊急の必要があり、しかも、その方法が停止を求めるための説得の手段の域にとどまるなどの本件事実関係(判文参照)のもとにおいては、犯人検挙のための捜査活動として適法な職務執行にあたる。
歩行中の集団を停止させた警察官の行為が犯人検挙のための捜査活動として適法な職務執行にあたるとされた事例
刑法95条1項,刑訴法197条1項,警察官職務執行法2条1項
判旨
犯人が路上集団の中に紛れ込んだ際、集団全体の移動を停止させる措置は、犯罪の重大性、犯人発見の蓋然性、緊急の必要性、手段の相当性等の事情を総合勘案し、捜査活動として許容される限度内であれば適法な職務執行にあたる。
問題の所在(論点)
犯人が混入した集団全体を停止させ、その一員の肩に手をかけて引き留める行為が、公務執行妨害罪(刑法95条1項)の前提となる「職務の執行」の適法性を満たすか。特に、第三者の自由をも制約する一括停止措置の許容範囲が問題となる。
規範
任意捜査としての職務執行は、事案の軽重、犯人検挙の必要性、緊急性、およびこれによって制約される個人の自由との権衡を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容される。集団全体の停止措置については、①犯罪の内容、②犯人が当該集団内に存在する蓋然性、③犯人発見・検挙の可能性と緊急性、④停止の方法・態様(実力行使の程度)、⑤制約される時間の短縮性を総合勘案して判断する。
重要事実
韓国大使館付近で発生した警察官に対する暴行・傷害事件(全治10日)の犯人が、約130名のデモ集団の中に逃げ込んだ。犯行から5〜10分後、警察側は集団の四散を防止するため、歩道上の集団の先頭に回り込み停止を求めた。その際、盾や身体が接触したが強制的な停止は行わなかった。警察官Fが、立ち去ろうとした被告人の肩に手をかけ停止を求めたところ、被告人が暴行に及んだ。集団の停止時間は合計6〜7分であり、その間に目撃者による見分が行われていた。
あてはめ
まず、①傷害を伴う公務執行妨害は軽微な犯罪ではない。②犯行直後で集団内に犯人がいる蓋然性が高く、目撃者が同行しており検挙の可能性も極めて高かった。③集団が四散する直前であり、停止させる緊急の必要性があった。④停止方法は説得の域を出ない程度の接触にとどまり、強制的な手段は用いられていない。⑤停止時間も6〜7分と短時間であり、被告人が受けた不利益はさして大きくない。以上より、F巡査部長の行為は捜査活動として許容される限度を超えない相当なものであると評価できる。
結論
本件の停止措置および肩に手をかける行為は適法な職務執行にあたるため、これに抵抗して暴行を加えた被告人には公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
任意捜査の限界に関する「必要性・緊急性と具体的態様の相当性」という比例原則(最高裁昭和51年3月16日判決参照)を、集団に対する一括停止という特殊な場面に適用したもの。司法試験では「任意捜査の限界」や「職務質問に伴う有形力行使」の論点において、本件の5要素(重大性・蓋然性・緊急性・手段・不利益の程度)をあてはめの指標として活用すべきである。
事件番号: 昭和25(れ)1359 / 裁判年月日: 昭和25年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務執行妨害罪の成立には、公務員が公務の執行中であることを認識しつつ暴行を加えることが必要である。また、証拠の一部が他の証拠と矛盾する場合であっても、その一部を事実認定に援用することは採証法則に反しない。 第1 事案の概要:岡山市巡査Aが食糧管理法違反容疑者を逮捕しようとした際、被告人は同巡査に対…