被告人は原審公判で第一審の判決摘示の犯罪事実(原判決と同様に常習賭博の事実を認定している)を読み聞けられたのに対し、「その通り相違ありません」と答えているのである。従つて、被告人の全供述を通読すると、最後に被告人が述べた「罰金刑をお願い致します」という供述は、懲役刑より軽い罰金刑の方を願う常人の単純な希望を述べたに過ぎないのであつて、常習賭博の法定刑が懲役刑のみを規定していることを特に念頭に入れた精密な法律智識を前提として発言したものでないと解するのが妥当である。
常習賭博の事実を認めている被告人の「罰金にしてもらいたい」との最終陳述の意義
刑法186条1項,旧刑訴法349条
判旨
被告人が公判で常習賭博の事実を自白した上で「罰金刑をお願いします」と述べたとしても、それは懲役刑のみが規定されている法定刑の無知に基づく単純な希望の表明に過ぎず、常習性を争う趣旨とは解されない。
問題の所在(論点)
懲役刑しか規定されていない常習賭博罪の被告人が「罰金刑を希望する」旨を述べた場合に、これが常習性の事実を争う趣旨の供述として扱われるべきか。
規範
被告人の供述が特定の事実を争う趣旨であるか否かは、当該発言のみを孤立させて捉えるのではなく、公判における全供述を通読し、被告人の法律的知識の程度や発言の文脈を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
被告人は常習賭博罪(刑法186条1項)で起訴され、第1審判決も常習性を認めていた。原審(第2審)の公判において、被告人は判示された犯罪事実(常習性の点を含む)を読み聞かされた際、「その通り相違ありません」と自白した。しかし、その後に「罰金刑をお願い致します」と述べたため、懲役刑のみが規定されている同罪において、罰金刑を求める発言が常習性を否定する趣旨(単純賭博罪の主張)にあたるかが問題となった。
あてはめ
被告人は公判調書上、犯罪事実を全部自白しており、別段常習性を争っていない。最後になされた「罰金刑をお願い致します」という供述は、懲役刑より軽い罰金刑を願う常人の単純な希望を述べたに過ぎない。この発言が、常習賭博の法定刑に罰金刑がないという精密な法律的知識を前提としたものとは解されない。したがって、被告人の全供述を合理的に解釈すれば、常習性を争う意思は認められない。
結論
被告人の発言は常習性を争う趣旨ではなく、原判決が常習性を認定したことに違法はない。上告棄却。
実務上の射程
被告人の供述の真意を判断するにあたり、文言のみに拘泥せず、全体の供述の流れや法的知識の有無を考慮する解釈手法を示している。実務上、被告人の矛盾する発言を整理・評価する際の参考となる。
事件番号: 昭和25(れ)1540 / 裁判年月日: 昭和26年2月2日 / 結論: 棄却
本件において、所論前科の事実は、賭博常習認定の一資料に過ぎないのであつて、かかる前科事実を自白のみによつて認定することを違法とする法的根拠はなく、なお原判決は、右前科の外被告人等の第一審公判における供述、検察官、の松田和三吉に対する聴取書、検察事務官の安村俊雄に対する聴取書を綜合して、本件常習賭博全体の事実を認定したも…