判旨
恐喝罪の成否について、被害者が財物を交付した直接の契機が特定の具体的脅迫行為そのものでなくとも、前日等の言動に起因する畏怖状態が継続しており、それにより財物を交付したと認められる場合には、一連の行為として恐喝罪が成立する。
問題の所在(論点)
恐喝罪の成立において、財物交付の直接の場面で新たな脅迫行為が行われなかった場合であっても、過去の言動に由来する畏怖状態に基づいて財物を交付させたときに、恐喝罪の既遂が認められるか。
規範
恐喝罪(刑法249条)における「恐喝」及びそれによる財物の「交付」の認定においては、財物提供の時点で行われた具体的言動のみならず、それ以前から継続している被告人と被害者との関係や、被害者が抱いている畏怖状態の有無・程度を総合的に考慮すべきである。前日等の言動により生じた畏怖状態が財物提供時にも継続しており、その畏怖心によって財物を交付したと認められる限り、交付時における新たな脅迫行為の有無を問わず恐喝罪を構成する。
重要事実
被告人は飲食店において、被害者に対し清酒二升を提供させた。被害者は、その前日に被告人が示した「酒食を提供しないと身体に危害を加えるかもしれない」という気勢を畏怖しており、当日もなおその畏怖状態が継続していた。そのため、被害者は被告人に対して清酒を提供せざるを得ない状況にあった。また、被告人は別の場所において「乾児(舎弟)」数名を連れて現れ、威圧的な状況を作り出していた。
あてはめ
本件では、証人の供述によれば、被害者が清酒を提供したのは、前日に被告人が示した危害の気勢により生じた畏怖心が当日も継続していたためであると認められる。この場合、被害者の財物交付は被告人の作り出した畏怖状態に直接起因するものといえる。また、被告人が「乾児」数名を連れて現れた事実は、被害者の推測ではなく客観的な人影等の証拠から認定可能であり、被害者の畏怖状態を裏付ける重要な事実である。したがって、被害者の畏怖状態と財物交付との間には因果関係が認められ、恐喝罪の構成要件を充足する。
結論
被告人が前日からの畏怖状態を利用して被害者に清酒を提供させた行為は、恐喝罪を構成する。原判決に事実誤認や法の適用誤りはない。
実務上の射程
本判決は、恐喝罪における「脅迫」と「交付」の因果関係を時間的に柔軟に捉える射程を有する。答案作成上は、交付の瞬間の言動だけでなく、前段階からの「畏怖状態の継続」を事実として拾い、交付の動機となったことを論述する際に活用できる。また、共犯者や随伴者の存在が被害者の畏怖を強めたという文脈での事実認定の正当性を示す際にも参照しうる。
事件番号: 昭和26(あ)1826 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権の行使等の正当な権利行使の手段として行われた恐喝行為であっても、その手段が社会通念上許容される範囲を超えている場合には、恐喝罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が、被害者に対して何らかの債権等(正当な権利)を有していたことを前提としつつ、その支払を求める手段として恐喝行為に及んだ事案である…