被告人A、第一審被告人B外五名等が、それぞれ、貨物を携えて朝鮮に密航しようと企て、被告人Cに同人がDから買受けた機帆船E丸で判示の貨物を輸送することを依頼し同人の承諾をえたので、被告人A等の昭和二三年五月三〇日夕刻頃から午後九時頃迄に、判示貨物を福岡市a町のF事G方飯場内及び同家附近の住宅営団倉庫前に運搬集積して、同所から僅々二九一米余の近距離にある判示H株式会社工場近くの岩壁下に同夜右機帆船の回航してくるのを待ち、他方被告人Cは同船長Iに命じて、同船を同日午後b島に回航せしめ更に同島から同夜被告人Aが貨物を集積して待機している前記場所近くの岩壁下に向け航行せしめていたところ途中で警察に発見されたというのであるから被告人A等の判示所為は既に輸出の実行に接着する行動に出たものたること勿論であるから被告人等は昭和二一年勅令第二七七号第一条三項にいわゆる輸出しようとした者に該当するといわなければならぬ。
昭和二一年勅令第二七七号第一条第二項にいわゆる「輸出としようとした者」にあたる例
昭和21年5月17日勅令277号1条2項
判旨
海上における物品の輸出未遂罪の実行の着手時期について、目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載する行為に接着する手段行為の遂行に入った時点で肯定される。
問題の所在(論点)
海上からの密輸出を企て、貨物を岸壁付近に集積して船舶の到着を待つ行為が、輸出罪の実行の着手(「輸出しようとした」こと)に該当するか。
規範
輸出未遂罪(昭和21年勅令第1号1条2項)にいう「輸出しようとした者」とは、海上においては、目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載する行為に接着する手段行為の遂行に入った者を指す。
重要事実
被告人Aらは、貨物を携えて朝鮮へ密航することを企て、被告人Cに機帆船での輸送を依頼した。Aらは貨物を福岡市内の岸壁からわずか291メートルほどの距離にある飯場等に運搬・集積し、当該岸壁に機帆船が回航してくるのを待機していた。他方、Cは船長に命じて、当該岸壁に向けて機帆船を航行させていたが、その途上で警察に発見された。
事件番号: 昭和24(れ)219 / 裁判年月日: 昭和24年6月28日 / 結論: 棄却
關税法所定の輸出行爲は、海上にあつては目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載することによつて完成するものであるが、その完成に至る前でも、工作が既に上記の程度に進捗したものは、關税法の罰則等の特例に關する勅令第一條第二項にいわゆる「輸出しようとした者」に該ると解すべきである。
あてはめ
本件において、被告人らは朝鮮という日本領土外へ向かう船舶に貨物を積載することを目的としていた。被告人らが貨物を岸壁から至近距離(291メートル)にある場所に集積し、回航されてくる船舶を待機していた行為は、客観的に見て、船舶への積載行為に時間的・場所的に極めて接近したものといえる。このような準備・待機状況は、積載という実行行為に「接着する手段行為」の遂行に入ったものと評価される。
結論
被告人らの所為は輸出の実行に接着する行動に出たものといえるため、輸出未遂罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、実行の着手時期について「密接性」を重視する客観説の立場を具体化したものである。特に輸出罪のような事案では、現実の積載に至る前であっても、積載を確実にするための直近の準備行為(場所的集結や船舶の呼び寄せ等)があれば着手を認める実務上の指針となる。
事件番号: 昭和24新(れ)458 / 裁判年月日: 昭和25年5月30日 / 結論: 棄却
一 昭和二一年勅令第二七七號關税法の罰則等の特例に關する件第一條第二項に所謂「輸出しようとした者」とは、目的の物品を、日本領土外に仕向けられた船舶に積載する行爲の實行には達しなくても、輸出のための單なる準備行爲の範圍を超えて、右積載行爲に接着近接した手段行爲の遂行に入つた者を指稱することは當裁判所の判例の示すところであ…
事件番号: 昭和25(れ)1912 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】被告人が運搬・積載に関与した既遂物品と、実際に押収された未遂物品とを混同して事実認定を行い、当該押収物品を既遂罪の証拠として没収することは、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認である。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは、C丸を用いた密輸出に関与したとして起訴された。起訴状には密輸出の既遂事実と…
事件番号: 昭和23(れ)450 / 裁判年月日: 昭和23年8月5日 / 結論: 棄却
一 刑訴應急措置法第一二條は、所定の書類の供述者又は、作成者を訊問する機會を被告人に與へなければ、證據とすることができないとしたに過ぎないものであるから、既にその供述者又は作成者を訊問する機會を被告人に與えた以上その書類を證據とすることを毫も妨ぐるものではない。 二 本件記録によれば被告人は、昭和二二年六月九日判事の勾…
事件番号: 昭和25(れ)433 / 裁判年月日: 昭和25年9月19日 / 結論: 棄却
所論のように朝鮮向け船舶が當時絶對に存在しなかつたということは原審の認定しない事實であつて、原判決の摘示事實とその舉げている證據によれば、かかる船舶が存在し被告人等もこれが來航を豫期して密輸出物資を多量に買入れ、これと朝鮮在住者宛の手紙等を取り纒めて梱包し、貨物自動車二台に積載し、眞夜中ひそかに海岸近くまで運搬したので…