被告人らの原審弁護人角田俊次郎が原審第一回公判において、A造船工業株式会社社員B及びCを証人として申請し原審においてその採否を留保していたところ、結局第二回公判において、いずれもこれを却下したことは所論のとおりである。しかし原審において弁護人が右両名の証人を申請したのは、単に犯情の点について、買主が売つて呉れといつたので、本件カーバイト等を売るに至つた事情を明らかにするためであつて、前記始末書や聴取書に記載されている真実性の有無を立証しようとするものでないことは、記録上明らかである。かような趣旨の下になされた証人申請は、刑訴応急措置法一二條一項の請求に当らないことは、すでに当裁判所の判例とするところである。(昭和二四年(れ)第一五六号同七月五日第三小法廷判決、集三巻八号一一五九頁参照)
始末書や聴取書の記載に関係なく他の目的でその供述者、作成者の喚問を請求した弁護人の証人申請と刑訴応急措置法第一二條第一項
刑訴応急措置法12條1項
判旨
刑事訴訟法上、証拠同意等により証拠能力を付与された書面(始末書や聴取書等)がある場合において、その記載内容の真実性を争う趣旨ではなく、単に犯情に関する事実を立証する目的でなされた証人尋問の請求は、書面の内容を直接否定するための権利行使には当たらない。
問題の所在(論点)
証拠採用された書面の記載内容に関連する人物の証人申請を却下することが、証拠の真実性を争う権利を侵害し、違憲または違法となるか。特に、証人申請の目的が「犯情」の解明にある場合の取扱いが問題となる。
規範
書面証拠(始末書や聴取書等)が採用されている場合であっても、弁護人が請求した証人尋問が、単に犯情(犯行の経緯や事情)を明らかにする目的であり、当該書面の記載内容の真実性を直接立証しようとするものでないときは、法的な証拠調べ請求の権利(刑訴応急措置法12条1項、現行法における反対尋問権等に関連)の不当な侵害には当たらない。
重要事実
被告人らはカーバイト等の販売に関する刑事事件において、一審で会社社長提出の始末書及び検察事務官作成の聴取書が証拠として採用された。弁護人は、これに対し買主側の社員2名を証人として申請したが、原審はこれを却下した。弁護人は、証人申請が却下されたことは証拠の真実性を争う機会を奪うものであり違憲であると主張して上告した。
あてはめ
記録によれば、弁護人が証人を申請した趣旨は、買主側から「売ってくれ」と言われたという犯行に至る経緯(犯情)を明らかにする点に限定されていた。これは、既に採用されている始末書や聴取書に記載された事実そのものの存否や真実性を争うための立証活動ではない。したがって、真実性を争うための正当な権利行使としての証拠請求には該当せず、裁判所が裁量によりこれを却下したとしても違法ではない。
結論
本件証人申請の却下は適法であり、憲法違反や刑事訴訟法違反の主張には理由がないため、上告を棄却する。
実務上の射程
伝聞証拠の証拠能力が認められた後、その書面の内容を弾劾するために証人尋問を求める際の限界を示す。単なる犯情立証目的の請求は、書面の真実性を争うための不可欠な手続きとはみなされないため、裁判所の証拠採否の裁量が広く認められる傾向にあることを念頭に置くべきである。
事件番号: 昭和26(れ)1262 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意が憲法違反を主張するものであっても、その実質が単なる刑事訴訟法411条該当事由の主張にすぎない場合は、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人側が憲法違反を理由として上告を申し立てた事案。しかし、その上告趣意の内容を精査したところ、実質的には刑事訴訟法411条(判決後の法令…