判旨
詐欺罪の成立において、欺罔行為により相手方が錯誤に陥ったといえるためには、相手方である金融機関の係員が現実に仮装の事実を誤信したことが必要である。当時、封鎖預金を新円と交換させる不正が横行していた実状があったとしても、個別の事案において係員が欺罔された事実は否定されない。
問題の所在(論点)
金融機関の係員が仮装の事実を認識していた可能性がある場合において、詐欺罪の構成要件である「欺罔(錯誤)」が認められるか。
規範
詐欺罪(刑法246条)における欺罔行為とは、財産的処分決定の基礎となる重要な事項について相手方を誤信させる行為をいう。相手方が事実を知り抜いている場合には錯誤が認められないが、相手方が現実に虚偽の事実を真実であると誤信した場合には、欺罔されたものと認められる。
重要事実
被告人らは、銀行から封鎖預金を新円と交換して引き出すため、銀行係員を欺いて仮装の事実を告げた。弁護側は、当時金融機関側ではこのような仮装の事実を知り抜いていたため、係員は欺罔されておらず詐欺罪は成立しないと主張した。また、当時は同様の手口で新円交換が行われていた実状があったことを強調した。
あてはめ
原判決によれば、被告人らは銀行係員に対して仮装の事実を提示し、これを受けた係員が現実にその内容を誤信した事実が認定されている。当時の社会状況として、封鎖預金を新円に交換する不正が横行していた実状(動機に関連する事実)があったとしても、本件において個別の銀行係員が具体的に欺罔されたという事実認定を左右するものではない。したがって、被告人らの行為により相手方が誤信し、錯誤に陥ったものと評価される。
結論
被告人らが銀行係員を誤信させた事実に変わりはなく、詐欺罪が成立する。
実務上の射程
事件番号: 昭和27(あ)6498 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における欺罔行為は、必ずしも被害者に経済的損失を負わせることのみを目的とするものではなく、被害者が真実を知っていれば金品を交付しなかったであろう重要な事項について偽ることを含む。 第1 事案の概要:被告人らは共謀の上、特定の商品や権利の販売において、その性質や価値について虚偽の事実を告げた。…
詐欺罪の成否において、被害者が「知ろうと思えば知ることができた」あるいは「一般的によくある手口であった」という事情があっても、個別に担当者が誤信した事実が認められれば錯誤は肯定される。答案上、相手方の知識の有無が争点となる事案において、具体的な誤信の有無を認定する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和26(れ)1644 / 裁判年月日: 昭和26年10月25日 / 結論: 棄却
原判決の確定した事実は、要するに被告人の所為は判示架空の商取引を偽造し、判示銀行係員を欺いてその旨誤信させ、よつて判示小切手に封鎖支払の認証を受けて財産上不法の利益を得たというのであるから、刑法二四六条二項の詐欺罪を構成すること論を俟たない。