所論は、原判決が、被告人の犯罪事実第一の一に対し、昭和二三年六月一五日の改正前の指定生産資材割当規則第八条を適用すべきにかかわらず、改正後の第九条を適用したのは、法令によらない裁判であつて、憲法に違反するというのである。仮に原判決が誤つて、改正後の同規則を適用したものと解しても、本件において両者は、実質的に差異がないのみならず、原判決は、結局重い公文書偽造行使罪の刑によつているのであるから、判決に影響を及ぼさないこと明らかな場合に該当する(旧刑訴四一一条)。従つて結局論旨は採用することはできない。
実質的差異のない新旧法条の適用の誤と上告理由
旧刑訴法411条,刑法6条
判旨
判決において適用法令の条項に誤りがあったとしても、実質的な差異がなく、かつ他の重い罪の刑によって処断されているなど、判決の結果に影響を及ぼさないことが明らかな場合には、上告理由とはならない。
問題の所在(論点)
原判決が、行為時に施行されていた改正前の規定ではなく、改正後の規定を誤って適用した場合に、それが判決に影響を及ぼす法令違反(上告理由)となるか。
規範
法令の適用の誤り(旧刑事訴訟法411条、現行刑事訴訟法379条・380条参照)が上告理由となるためには、その誤りが判決に影響を及ぼすことが必要である。適用条文の誤記や、実質的な差異のない改正後規定の適用であっても、刑の選択や結論に影響を及ぼさないことが明白であれば、破棄理由には当たらない。
重要事実
被告人Aは指定生産資材割当規則違反等の罪で起訴された。原判決は、犯罪事実第一の一に対し、本来適用すべき改正前の同規則8条ではなく、改正後の同規則9条を適用した。しかし、本件においては改正前後で規定の内容に実質的な差異はなく、また、原判決は最終的に併合罪の関係にある、より重い公文書偽造・同行使罪の刑によって被告人を処断していた。
事件番号: 昭和27(あ)5893 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に適用法令の誤りがある場合であっても、適用されるべき正しい罰則が同一であり、その違法が判決の結果に影響を及ぼさないときは、原判決を破棄すべき理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人は昭和24年3月14日に石油製品の配給に関する違反行為を行った。原判決は、この行為に対して石油製品配給規則11…
あてはめ
まず、原判決の条文掲示は、単なる改正前規定(8条)の誤記であると評価できる。仮に改正後の規定を誤って適用したとしても、本件では改正前後の規定内容に実質的な差異は認められない。さらに、被告人は本件各罪のうち最も重い公文書偽造・同行使罪の刑によって処断されており、割当規則違反の適用条項の成否は最終的な量刑に影響を与えていない。したがって、当該法令適用の誤りは判決に影響を及ぼさないことが明らかであるといえる。
結論
原判決の法令適用に誤りがあったとしても、それが判決に影響を及ぼさないことが明らかである以上、適法な上告理由とはならず、上告は棄却される。
実務上の射程
裁判所による条文の引用ミスや、実質的な不利益のない新旧法の適用ミスについて、判決への影響を否定する際の論拠として使用できる。司法試験においては、訴訟法の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」の有無を検討する際の考慮要素(実質的差異の有無、処断刑への影響)として参考になる。
事件番号: 昭和26(れ)511 / 裁判年月日: 昭和26年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法令が改正された場合において、改正前の行為に改正後の規定を適用することは法の遡及適用に当たり原則として許されないが、併合罪の関係にある他の罪の法定刑に従って処断され、刑の量定に影響がない場合には、判決に影響を及ぼすべき著しい法令違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は臨時物資需給調整法違反…
事件番号: 昭和26(れ)759 / 裁判年月日: 昭和26年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、刑訴法施行法3条の2及び刑訴法408条に基づき、上告理由が不適法である場合、または職権による破棄の必要がない場合には、弁論を経ずに判決をもって上告を棄却できることを示した。 第1 事案の概要:弁護人が上告趣意書を提出して上告を申し立てたが、その内容が刑訴法405条に定める上告理由(憲法違…
事件番号: 昭和25(あ)1759 / 裁判年月日: 昭和26年6月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認の主張は刑訴法405条の上告理由に該当せず、職権調査の必要性も認められない場合は上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、原判決に事実誤認がある旨を主張して上告を申し立てた。本件の記録を精査したところ、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるような特段の事情は認めら…
事件番号: 昭和26(れ)595 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認および量刑不当の主張は、刑事訴訟法上の適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人が、原審の認定していない事実(証明書の下附等)を前提として事実誤認を主張するとともに、量刑が不当であるとして上告を申し立てた事案。 第2 問題の所在(論点):事実誤認および量刑不当の主張が、刑事訴…