所論の引用する司法警察職務規範を検討しても、被疑者と然らざる者とで、その始末書の方式に所論のような厳格な区別が設けられているとは認められないのみならず、右職務規範は、司法警察官に対する司法省刑事局長の訓令に過ぎなかつたのであるから、仮に右始末書がこの訓令の方式に多少一致しない部分があるからといつて、これがため始末書の記載が無効となり、又は証拠能力を失うとはいえない。
訓令の方式に違反する始末書の証拠能力
大正12年12月司法省訓令司法警察職務規範54条,大正12年12月司法省訓令司法警察職務規範58条,大正12年12月司法省訓令司法警察職務規範57条,旧刑訴法337条
判旨
行政組織内部の訓令にすぎない規定に違反して作成された証拠であっても、そのことのみをもって直ちに当該証拠が無効となり、または証拠能力を失うものではない。
問題の所在(論点)
司法警察官に対する訓令(司法警察職務規範)に定められた方式に準拠せずに作成された始末書の証拠能力が認められるか。
規範
行政組織内部の規律を定めた訓令(司法警察職務規範等)は、公務員に対する内部的な命令にすぎない。したがって、書面等の作成手続において当該訓令の定める方式に合致しない部分があるとしても、その形式的不備のみを理由に、当然に当該証拠の法的効力が否定されたり、刑事訴訟上の証拠能力が失われたりするものではない。
重要事実
被告人らは共謀の上、強盗致死傷事件等を起こしたとして起訴された。第一審・控訴審において事実認定の証拠として採用されたD作成の始末書について、弁護人は、(1)長期拘禁や暴行強要により作成されたものであり、(2)被疑者に対する方式で作成されており司法警察職務規範に違反していると主張した。また、E作成の始末書が数通存在することも理由に、これら証拠の証拠能力を争い上告した。
あてはめ
まず、弁護人が主張する長期拘禁や暴行強要の事実は記録上認められず、任意性の欠如による証拠能力否定の前提を欠く。次に、始末書の作成方式が司法警察職務規範に反するという点については、同規範は司法省刑事局長から司法警察官に対する訓令にすぎないものである。仮に作成された始末書がこの訓令に定める方式と多少一致しない部分があったとしても、そのことによって直ちに記載が無効になったり、証拠能力が失われたりすると解することはできない。
結論
内部規定である訓令に違反する手続による証拠であっても、それだけで証拠能力が否定されることはなく、原判決の証拠採用に違法はない。
実務上の射程
手続の違法と証拠能力の関係において、訓令違反が直ちに違法収集証拠排除法則等の適用を導くものではないことを示す。もっとも、現代の刑事訴訟実務においては、憲法や刑訴法の適正手続の観点から、訓令違反が重大な違法の一部を構成する可能性には留意が必要である。
事件番号: 昭和25(あ)3334 / 裁判年月日: 昭和26年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】逮捕手続の違憲性は原判決の違法を直接構成するものではなく、適法な上告理由とはならない。また、第一審において対質の機会が与えられている以上、証拠調べ手続に違憲の過誤があるとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が逮捕手続の違憲および証人Aに対する尋問手続の不備(対質の機会の欠如等)を主張して上告…