原判決は、所論裁判官Aを陪席裁判官の一員として昭和二六年三月二六日仙台高裁で開かれた公判に基ずいて言渡されたものであつて、右Aが同判決のあつた当時判事の身分を有し、仙台地方裁判所であつたことは当裁判所に顕著なことであり(仙台高等裁判所事務局長は単にその事務取扱を委嘱されていたに過ぎない)、「高等裁判所は裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときはその管轄区域内の地方裁判所又は家庭裁判所の判事にその高等裁判所の判事の職務を行わせることができる」(裁判所法一九条一項)のであるから、仙台地方裁判所判事たる判事Aが仙台高等裁判所判事の職務を代行したのは、固より適法であるといわねばならない。従つて、原判決は何等憲法第三七条第一項に違反するものではない。
高等裁判所事務局長の事務取扱を委嘱された判事の裁判関与と公平な裁判所の裁判
裁判所法19条,憲法37条1項
判旨
憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは偏頗や不公平の恐れのない組織・構成を意味するが、裁判所法に基づき地方裁判所判事が高等裁判所判事の職務を代行することはこれに反しない。また、上訴審で被告人が供述を翻した場合であっても、第一審での自白と上訴審での供述のいずれを信じるかは裁判所の自由心証に委ねられる。
問題の所在(論点)
1. 地方裁判所判事が高等裁判所判事の職務を代行する構成が、憲法37条1項の「公平な裁判所」に反するか。2. 被告人が公判で自白を翻して否認に転じた場合、裁判所が第一審の自白を証拠として事実を認定することは許されるか。3. 本件において自白を裏付ける補強証拠が十分といえるか。
規範
1. 憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、偏頗(へんぱ)や不公平の恐れのない組織・構成を有する裁判所を指す。裁判所法19条1項に基づく職務代行は適法な組織構成である。2. 第一審の供述(自白)と原審(控訴審)の否認供述は各別の証拠であり、そのいずれを措信するかは、事実審裁判所の自由心証に属する。3. 自白の補強証拠(憲法38条3項)は、自白を実質的に裏付けるに足りるものであれば、直接証拠か間接証拠(情況証拠)かを問わない。
事件番号: 昭和25(れ)1826 / 裁判年月日: 昭和26年4月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、裁判所の組織および権限が偏頗や不公平のおそれのないものであることを意味し、個々の裁判における量刑の当否を指すものではない。 第1 事案の概要:被告人に対し刑の言渡しがなされたが、弁護人は、当該量刑が不当に重いことを理由として、これが憲法37条1項に反す…
重要事実
被告人は殺人等の罪で起訴され、第一審の公判廷において犯行を認める自白をした。第一審判決に対し被告人が控訴したところ、控訴審(原審)では第一審判事であった者が仙台高等裁判所判事の職務を代行して陪席裁判官を務めた。被告人は控訴審において、第一審での自白を翻して無罪を主張したが、原審は第一審の自白および証人、死体解剖鑑定書、押収された日本刀(海水による錆あり)等の証拠に基づき有罪判決を維持した。被告人は、裁判所の構成の不備および自白偏重の採証法則違背を理由に上告した。
あてはめ
1. 裁判所法19条1項は「裁判事務の取扱上さし迫った必要があるとき」に下級裁判所判事の代行を認めており、本件陪席裁判官の職務代行は適法な手続に則ったものである。したがって、不公平な組織とはいえず、憲法37条1項には違反しない。2. 証拠の評価は自由心証に委ねられており、第一審での自白と原審での否認が矛盾する場合でも、前者の信頼性が高いと判断することは裁判所の裁量の範囲内である。3. 補強証拠について、死体解剖鑑定書による死因・凶器の照応、押収された日本刀の錆の状態、関係者の証言等は、自白された犯罪事実を十分に裏付けており、自白のみによる処罰を禁じた憲法38条3項に違反しない。
結論
1. 裁判所法に基づく判事の職務代行は憲法37条1項に違反しない。2. 被告人の否認にかかわらず第一審の自白を証拠採用することは適法であり、十分な補強証拠も存在するため、採証法則違背の主張は認められない。
実務上の射程
刑事訴訟において、下級裁判所判事による上級審の職務代行の合憲性を肯定する際の根拠となる。また、自白の証明力評価が自由心証に属すること、および補強証拠の要件を緩やかに解する(情況証拠でも足りる)実務上の運用を追認する事例として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1329 / 裁判年月日: 昭和26年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審の公判廷において被告人及び弁護人に直接審問の機会が与えられた証人の供述を記載した公判調書については、控訴審において再度審問の機会を与えなくても、証拠として採用することは憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人A及びBの弁護人は、控訴審(原審)の第2回公判廷において証人Cの喚問を…
事件番号: 昭和27(あ)5836 / 裁判年月日: 昭和29年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項前段は、裁判所が必要性を認めて尋問を許可した証人について規定したものであり、被告人側が申請した証人のすべてを取り調べなければならないという趣旨ではない。 第1 事案の概要:被告人側が証人の取調べを申請したが、裁判所がこれを全て採用しなかった事案(具体的な事案の詳細は判決文からは不明)…
事件番号: 昭和26(あ)750 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、裁判官が偏頗な疑いがない客観的な組織・構成を備えていることを指し、当事者の主観的な不満を基準にするものではない。 第1 事案の概要:被告人A、Bらは、その行為が占領軍政策実施に協力する適法行為であると主張したが認められなかった。また、量刑等の判断や裁判…
事件番号: 昭和27(あ)4113 / 裁判年月日: 昭和28年2月19日 / 結論: 棄却
一 鑑定は、裁判所が裁判上必要な実験則等に関する知識経験の不足を補給する目的で、その指示する事項につき、第三者をして新たに調査をなさしめて、法則そのもの又はこれを適用して得た具体的事実判断等を報告せしめるものである。 二 鑑定人がいわゆる鑑定事項の調査をなすに際して、特別な知識経験を必要とする場合、その知識経験は必ずし…