記録によれば被告人は昭和二三年七月二〇日窃盗罪の容疑で逮捕され同月二二日勾留その後引続き拘束審理進行中昭和二三年一二月二二日検察庁及び裁判所に本件犯行を認むる旨の上申書を提出し翌二四年一月二一日の第三回公判に於て公訴事実の通り自白の供述をしたものであり、二三年七月二〇日の逮捕以後右上申書提出まで五箇月余を経過しているのであるが、本件事件は記録に明らかな如く相続問題に絡む相当複雑な事件であり、その上当初の起訴にかかる窃盗封印破毀被告事件も併存していたので、右拘禁が必ずしも不当に長いものであるとはいえないのであり、尤も被告人は原審においては犯行を否認し一審の自白は保釈は念願する余りなしたものであると述べているけれども前敍第一審における裁判長の行き届いた尋問に対する被告人の供述に徴して遽かにこれを措信することはできない。
勾留後五箇月余を経過してした公判廷における自白が不当に長い拘禁後の自白と認められない一事例
刑訴応急措置法10条2項,憲法38条2項
判旨
不当に長い拘禁(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に基づく自白として証拠能力が否定されるためには、拘禁と自白との間に因果関係が必要であり、不当な長期拘禁であっても任意性が認められる場合には証拠能力を有すると判断した。
問題の所在(論点)
逮捕から5か月余り経過した後の自白が、憲法38条2項および刑訴法319条1項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるか。また、不当な拘禁と自白との因果関係の要否が問題となる。
規範
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)については、その拘禁が直ちに自白の証拠能力を否定するものではなく、当該拘禁と自白との間に因果関係が認められない場合には、証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人は窃盗罪等の容疑で逮捕・勾留され、起訴後も拘束が続く中、逮捕から約5か月余りを経過した後に自白に転じ、その約1か月後の第3回公判において公訴事実を認める供述をした。弁護人は、この自白は不当に長い拘禁によるものであり証拠能力がないと主張して上告した。
あてはめ
本件は相続問題が絡む複雑な事案であり、別罪の併存も考慮すれば、5か月余りの拘禁が直ちに不当に長いものとは断定できない。さらに、第1審裁判長が長期拘束の影響を懸念して詳細な尋問を行った際、被告人は「任意に自白したものである」旨を明確に述べていた。被告人が後に「保釈を念願して自白した」と主張しても、公判廷での詳細かつ懇切な尋問の顛末に照らせば、当該自白が拘束の影響を受けたものとは認めがたい。したがって、仮に拘禁が不当に長期であったとしても、自白と拘禁との間に因果関係は認められないといえる。
結論
被告人の自白と長期拘禁との間に因果関係がない以上、当該自白の証拠能力を認めた原判決に違憲・違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の任意性に関する「不当な長期拘禁」の判断において、期間の長さのみならず、事件の複雑性や公判廷での裁判官による尋問内容を重視し、因果関係の存否を厳格に検討する際の準拠となる。実務上は、319条1項の「不当に長い拘禁」を文字通りに解さず、任意性疑義の類型の一つとして因果関係を要求する判例として引用する。
事件番号: 昭和26(あ)3343 / 裁判年月日: 昭和28年8月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長い抑留又は勾禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか否かは、事実の内容や手続の経過等を総合的に勘案して判断されるべきである。また、自白以外の証拠により犯罪事実を認定し得る場合には、自白のみによる有罪判決には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が司法警察官に対して行った…