満一六歳に満たない少年に対し勾留の必要を認められないような事件について七カ月余勾留して、その間別罪たる放火罪について取調をした場合において、その間にされた自白に一貫性がなく、取調の途中で一旦犯行を否認したことがあるようなときは、七カ月余の勾留後になされた自白は、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白にあたる。
不当に長く抑留又は拘禁された後の自白にあたる一事例
憲法38条2項,刑訴法319条1項
判旨
憲法38条2項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」とは、身柄拘束の期間だけでなく、その必要性や事件の難易、自白に至る経緯等を総合的に考慮して判断される。本件では、単純な事件で当初から認めているにもかかわらず、別件を名目に7ヶ月余り継続した拘禁下の自白は、証拠能力を欠くとされた。
問題の所在(論点)
不当な身柄拘束下でなされた自白の証拠能力が問題となる。具体的には、別件での勾留を利用して長期間拘束し、その間に得られた自白が「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」(憲法38条2項)として証拠能力を否定されるべきか。
規範
憲法38条2項及び刑訴法319条1項が定める「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」に当たるか否かは、単に拘禁期間の長短のみならず、事件の性質・内容、拘束の必要性、被告人の属性、及び自白と拘禁との間の因果関係の有無を総合的に考慮して判断すべきである。特に、拘禁と自白との間に因果関係がないことが明白に認められない限り、当該自白の証拠能力は否定される。
重要事実
被告人(当時16歳の少年)は、放火罪の容疑で逮捕された後、同罪では起訴されず、極めて単純な事実で当初から認めていた恐喝罪の名目で勾留が更新され続けた。被告人は放火罪について警察や検察の取調べに対し、否認と自白を繰り返すなど供述が変遷しており、自白内容も一貫していなかった。結局、被告人は恐喝罪名目での拘禁が開始されてから約7ヶ月余りが経過した第1審公判期日において、放火罪について自白をした。
あてはめ
被告人の拘禁期間は7ヶ月余りに達しているところ、本件恐喝罪は極めて単純な事実であり、被告人も当初から犯行を認めていたため、身柄拘束を継続する必要性は認め難い。また、被告人が少年であるにもかかわらず、やむを得ない場合でないのに勾留が継続されていた点も考慮すべきである。放火罪についての供述は一貫性がなく、取調べの途中で否認に転じたこともあることから、当該自白と拘禁との間に因果関係が存在しないことが明らかであるとはいえない。したがって、本件自白は不当に長い拘禁の心理的影響下でなされたものと評価される。
結論
本件自白は、憲法38条2項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」に該当し、証拠能力が認められない。したがって、これに基づき有罪とした原判決には憲法違反の違法があり、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
自白の任意性排除法則のうち、拘禁の不当性を理由とする類型を示す。実務上は、勾留期間の客観的な長さだけでなく、身柄拘束の必要性の欠如(別件利用や不必要な更新)と自白との因果関係が重視される。答案では「不当な拘禁」の認定において、身柄拘束の必要性と事件の軽重、少年の保護などの属性を相関的に論じる際の指標となる。
事件番号: 昭和28(あ)1243 / 裁判年月日: 昭和28年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留開始から8日という期間は、憲法38条2項及び刑訴法319条1項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」には当たらない。また、自白以外の補強証拠が存在する場合には、それらを総合して事実認定を行うことが許容される。 第1 事案の概要:被告人は昭和27年2月13日に勾留された。その後、同年同月…
事件番号: 昭和28(あ)502 / 裁判年月日: 昭和28年9月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条2項が禁じる「不当に長く拘禁された後の自白」とは、不当な拘禁と自白との間に因果関係がある場合を指し、因果関係がないことが明らかな場合には証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人は第一の事実により約8ヶ月半勾留された後、保釈中に第二の事実を犯した容疑で再び勾留された。被告人は、第…