判旨
憲法37条1項に定める「迅速な裁判」を欠いた場合であっても、司法行政上の責任問題が生じる余地があるにとどまり、当然に判決破棄の理由となるものではない。また、「公平な裁判所」とは構成等に偏頗の恐れがない裁判所を指し、個別の事件処理の当不当を指すものではない。
問題の所在(論点)
刑事裁判における著しい審理の遅延(約2年間の放置)が、憲法37条1項の「迅速な裁判」および「公平な裁判所」を受ける権利を侵害するものとして、判決の破棄事由になるか。
規範
1. 憲法37条1項の「迅速な裁判」に違反する場合であっても、それは司法行政上の監督上の責任問題を生じさせるにすぎず、直ちに判決の破棄事由とはならない。 2. 同項にいう「公平な裁判所」とは、裁判所の構成その他において偏頗の恐れのない裁判所を意味し、個々の具体的事件における事件処理の当不当(遅延等)を指すものではない。
重要事実
被告人の刑事事件において、原審(控訴審)が記録の送付を受けた昭和24年2月14日から、第1回公判期日が開かれた昭和26年3月27日までの間、2年有余にわたって期日指定が一度もなされず、時日が空過された。弁護人は、この審理の遅延が憲法37条1項の迅速な裁判および公平な裁判所の権利に違反するとして上告した。
あてはめ
本件では、原審において特段の事情なく2年以上の空白期間が生じており、迅速性を欠く事態であることは遺憾であると認められる。しかし、迅速性の欠如は司法行政監督上の問題にとどまり、訴訟手続上の違法として判決を覆す理由にはならない。また、公平な裁判所の要件は、裁判所の組織・構成の客観的な中立性を担保する趣旨であり、本件のような事件処理の遅滞は「偏頗の恐れ」に該当せず、公平な裁判所による裁判を否定するものではない。
結論
審理の遅延は憲法37条1項に反するとの主張は、判決破棄の理由にはならず、上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、審理遅延のみを理由とする判決破棄を否定した初期の判例である。後に高田事件判決(最大法判昭47.12.20)が、異常な遅延により被告人の防御権が著しく害される場合には免訴を認める法理を示したため、本判決の「破棄理由にならない」という一般論は、極限的な遅延事例においては修正される可能性がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和26(れ)878 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判が迅速を欠いたとしても、それ自体は判決の破棄理由とはならない。刑事訴訟法上の上告理由には当たらないとするのが確立した判例である。 第1 事案の概要:上告人は、裁判が迅速を欠いたことを理由に原判決の破棄を求めて上告した。また、原判決には事実誤認および量刑不当がある旨も主張した。 第2 問題の所在…