一 裁判が迅速を缺き憲法第三七條第一項に違反したとしても、それは判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、上告の理由とすることができない。 二 裁判所が證據に引用した被告の自白が、その裁判所の公判廷における自白であるならば、それは憲法第三八條第三項の自白に含まれないことは、當裁判所の判例として示したところである。
一 裁判が迅速を缺き憲法第三七條第一項に違反する場合と上告理由 二 被告人の公判廷における自白と憲法第三八條第三項の自白
憲法37條1項,憲法38條3項,刑訴法411條
判旨
憲法37条1項が保障する裁判の迅速を欠いたとしても、判決自体を破棄すれば審理が更に遅延し同条の趣旨に反するため、特段の事情がない限り判決に影響を及ぼさない違法として上告理由にならない。
問題の所在(論点)
裁判の遅延が憲法37条1項に違反する場合、そのこと自体を理由として直ちに下級審判決を破棄し、上告理由とすることができるか。
規範
憲法37条1項の迅速な裁判の保障に違反したとしても、それのみをもって当然に判決が破棄されるわけではない。判決を破棄し差し戻せば、かえって裁判の進行を阻害し、同条の保障を形骸化させる矛盾を生ずる。したがって、仮に迅速を欠く違法があったとしても、それは判決に影響を及ぼさないことが明らかであるため、上告理由には当たらない。
重要事実
被告人3名は窃盗罪で起訴され、第一審判決の翌日に控訴を申し立てた。しかし、事件の輻輳や裁判所職員の不足等により、記録の整理・送致が遅れ、第一審判決から控訴審の第1回公判まで約5か月、公訴提起から第二審判決まで約6か月半を要した。弁護人は、この審理の遅延が憲法37条1項に違反するとして上告した。
あてはめ
本件では第一審判決後、控訴審開始まで約5か月を要しており、裁判が迅速を欠いたとの疑いは否定できない。しかし、この遅延を理由に判決を破棄すれば、事件は再び差し戻され、審理期間はさらに長期化する。これは裁判の迅速という憲法の要請に逆行する結果を招く。したがって、審理の遅延は司法行政上の責任を問う対象にはなり得ても、判決の内容自体を左右する「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」には当たらないといえる。
結論
本件の裁判が憲法37条1項に違反したとしても、それは判決に影響を及ぼさないため、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、審理の遅延が判決の有効性や破棄理由に直結しないことを示したものである。ただし、後に示された「高田事件」判決(最大判昭47.12.20)では、異常な遅延がある場合に免訴を認める枠組みが示されており、現在の答案作成上は、単なる上告理由の成否だけでなく、訴訟終了宣言(免訴等)の可否という文脈で本判例の射程を検討する必要がある。
事件番号: 昭和26(あ)5280 / 裁判年月日: 昭和27年5月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が規定する裁判の迅速性は、それ自体の違反をもって直ちに刑事訴訟法上の上告理由となるものではない。 第1 事案の概要:被告人が原審の量刑不当および憲法37条1項違反(迅速な裁判を受ける権利の侵害)を主張して上告した事案。判決文からは遅延の具体的な期間や原因等の事実は不明であるが、被告人…