判旨
憲法25条1項は国家の概括的責務を定めたものであり、個々の国民に直接具体的な権利を付与するものではないため、生存維持のための犯罪行為が同条により正当化されることはない。
問題の所在(論点)
1. 最低限度の生活を維持するための犯罪行為が、憲法25条1項を根拠として正当化され、処罰を免れることができるか。2. 法律の範囲内で量定された刑罰が、被告人にとって過酷である場合に憲法36条の「残虐な刑罰」に該当するか。
規範
憲法25条1項は、国家が国民に対し健康で文化的な最低限度の生活を営ませる責務を負うという国政上の任務を宣言したものであり、個々の国民に対して直接に具体的権利を付与するものではない。また、憲法36条の「残虐な刑罰」とは、人道上残酷と認められる刑罰を指し、法定刑の範囲内で量定された刑は、被告人にとって過酷であってもこれに当たらない。
重要事実
被告人は、自身の最低生活を維持するために犯罪行為(具体的な罪名は判決文からは不明)に及んだ。被告人は、当該犯行が憲法25条1項により正当化されるべきであること、および科された刑罰が過酷であり憲法36条に違反することを主張して上告した。
あてはめ
1. 憲法25条1項は抽象的な国政上の責務を定めたにすぎないため、生存権を根拠に特定の犯罪行為を正当化する直接的な権利は認められない。したがって、生活苦を理由とする犯行であっても、同条により違法性が阻却されたり科刑が免除されたりすることはない。2. 本件で裁判所が科した刑は法律の範囲内のものであり、人道上残酷な刑種ではない。個別の事情により被告人が過酷と感じるとしても、それは憲法36条が禁止する残虐な刑罰には該当しない。
結論
被告人の犯行は憲法25条1項により正当化されず、また本件の量刑は憲法36条に違反しないため、上告を棄却する。
実務上の射程
プログラム規定説に近い立場を示した初期の判例であり、生存権を根拠とした犯罪の正当化を否定する。答案上は、憲法25条の具体的権利性の否定、および36条の残虐な刑罰の意義(刑罰の種類そのものの残虐性)を論じる際の基準として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)162 / 裁判年月日: 昭和27年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条1項は、国家が国民一般に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ませるべき国政上の任務を定めたものであり、個々の国民に対して直接に具体的・現実的な権利を付与したものではない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件における上告審において、原判決が憲法25条(生存権)および憲法31条に違…