判旨
控訴審判決が、第一審判決の認定した事実は証拠により十分に認められる旨を判示した場合には、控訴趣意として主張された事実誤認の主張に対し、必要な判断を示したものと解される。
問題の所在(論点)
控訴趣意としての事実誤認の主張に対し、控訴審判決が「一審の認定事実は証拠により十分認められる」と抽象的に判示するだけで、判断の遺脱がないといえるか(刑事訴訟法392条1項の判断義務の充足性)。
規範
控訴審において事実誤認の主張(刑事訴訟法382条)がなされた場合、裁判所はこれに対する判断を示す必要があるが、一審判決の事実認定が証拠上適正である旨を簡潔に判示することで、その義務を果たしたものと認められる。
重要事実
被告人が原審(控訴審)において、第一審判決には事実誤認がある旨を控訴趣意として主張した。これに対し、原判決(控訴審判決)は「第一審判決判示事実は挙示の証拠により充分これを認めることができる」とのみ判示し、控訴を棄却した。弁護人は、この判決が事実誤認の主張に対する具体的な判断を遺脱しているとして、判例違反を理由に上告した。
あてはめ
原判決は、第一審判決が判示した事実が挙示された証拠によって十分に認められる旨を明示している。これは、控訴人が主張した事実誤認の有無について証拠に照らして検討し、一審の認定に誤りがないことを確認したことを意味する。したがって、弁護人が主張する「事実誤認の主張に対し判断を示さなかった」という前提は事実に反し、手続上の違法は認められない。
結論
控訴審が「一審判決の事実は証拠により認められる」旨を判示していれば、事実誤認の主張に対する判断を示したものといえ、上告理由は認められない。
実務上の射程
控訴審の判決書における理由の記載程度に関する判例である。詳細な逐一の反論がなくとも、結論を導く過程として一審の正当性を確認していれば判断遺脱とはならないことを示す。実務上は、控訴審の判断の合理性を争う際の限界事例として参照される。
事件番号: 昭和25(れ)1938 / 裁判年月日: 昭和26年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定の違法を理由とする上告について、原判決の掲げる証拠によって判示事実を認定したことが是認できる場合には、証拠によらずに事実を認定したという違法は認められない。 第1 事案の概要:被告人が原判決について、証拠に基づかずに事実を認定した違法(旧刑訴法下の事実誤認または証拠法則違反)があるとして上…