判旨
教唆者が特定の犯行場所を指示して窃盗を教唆したが、被教唆者がその指示された地点ではなく、別の場所で目的物を見つけて窃取した場合であっても、教唆の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
教唆者が指示した具体的な場所とは異なる場所で実行行為が行われた場合に、教唆の対象と実行行為の同一性が認められ、窃盗罪の教唆犯が成立するか。
規範
教唆犯(刑法61条1項)が成立するためには、教唆者の教唆行為と被教唆者の実行行為との間に因果関係が必要であるが、教唆の内容と実行行為とが具体的細部において完全に一致することまでは要しない。教唆者が示した犯罪の基本的内容(実行の決意を惹起させるに足りる特定性)が維持されており、その範囲内で実行行為が行われたと評価できる場合には、教唆犯が成立する。
重要事実
被告人は、当初地図を書いて養蜂箱がある特定の地点を指示し、そこから養蜂箱を窃取してくるよう教唆した。しかし、被教唆者が指示された地点を調べたところ養蜂箱は発見されず、他の場所にあることを発見した。その旨を被告人に報告したところ、被告人は改めてその発見された場所にある養蜂箱を窃取してくるよう教唆し、被教唆者はこれに従って窃取を実行した(なお、本件判決文の記述によれば、再度の指示も含めた一連の過程が「教唆」として認定されている)。
あてはめ
被告人は、当初から「養蜂箱の窃取」という特定の犯罪を計画し、実行の決意を惹起させる働きかけを行っている。その後、目的物の所在が当初の指示場所と異なっていたものの、報告を受けた被告人がその新たな場所での窃取を改めて指示(教唆)していることから、実行行為は被告人の教唆行為によって形成された犯意に基づくものといえる。したがって、場所の齟齬は教唆の本質的な特定性を損なうものではなく、教唆行為と実行行為との間の因果関係が認められる。
結論
被告人に窃盗罪の教唆犯が成立する。
実務上の射程
本判決は、教唆の具体的内容(特に場所)が事後的に修正・特定された事案において、教唆犯の成立を認めたものである。答案上は、教唆内容の特定性を論じる際、多少の事実的齟齬(場所や方法の微差)があっても、教唆者の働きかけと実行行為の間に因果性が認められれば教唆が成立することを基礎づける判例として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)5972 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
牛を盗む方法を教え、盗んだ牛を自分の小屋に入れるよう指示して再三牛を盗んでくるように勧説した者は、被害者が具体的に特定されていなかつたところで、それに基いて正犯が牛を盗んで来たときは、窃盗教唆としての責任を免れない。
事件番号: 昭和24(れ)3030 / 裁判年月日: 昭和25年7月11日 / 結論: その他
原判決によれば、被告人AはBに對して判示甲方に侵入して金品を盜取することを使嗾し、以て窃盜を教唆したものであつて、判示乙商會に侵入して窃盜をすることを教唆したものでないことは所論の通りであり、しかも、右Bは、C等三名と共謀して判示乙商會に侵入して強盜をしたものである。しかし、犯罪の故意ありとなすには、必ずしも犯人が認識…