牛を盗む方法を教え、盗んだ牛を自分の小屋に入れるよう指示して再三牛を盗んでくるように勧説した者は、被害者が具体的に特定されていなかつたところで、それに基いて正犯が牛を盗んで来たときは、窃盗教唆としての責任を免れない。
窃盗教唆が成立する一事例
刑法235条,刑法61条
判旨
教唆犯が成立するためには、正犯が実行すべき行為が特定されていることを要するが、犯行の依頼、保管場所の指定、および具体的な犯行方法の教示があれば、実行行為が特定されているといえ、教唆犯の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
教唆犯の成立要件として、正犯が実行すべき行為はどの程度特定されている必要があるか。また、本件のような働きかけが教唆にあたるかが問題となる。
規範
教唆犯(刑法61条1項)が成立するためには、教唆者が正犯に対して特定の犯罪を実行する決意を生じさせることが必要である。この「特定の犯罪」とは、正犯が実行すべき行為が具体的に特定されていることを指し、教唆行為によって正犯の実行すべき行為の態様や対象が判別可能であることを要する。
重要事実
被告人は、窃盗本犯Aに対し、「牛を盗んで来い」と再三にわたって依頼した。さらに、盗んだ牛は被告人自身の小屋に入れておくよう指示し、具体的な牛の盗み方についても教示を与えた。Aはこれらの働きかけを受け、実際に牛の窃盗行為に及んだ。
あてはめ
被告人は、単に窃盗を勧めただけでなく、再三の依頼によってAに実行を促し、盗品(牛)の保管場所を自己の小屋と指定することで犯行後の処理を具体化させている。また、盗み方という実行行為の手法まで教示していることから、正犯Aが実行すべき行為の内容は十分に具体化・特定されているといえる。したがって、被告人の行為は、Aに特定の犯罪の実行を決意させる教唆行為に該当すると評価できる。
結論
正犯の実行すべき行為が特定されている以上、被告人につき窃盗罪の教唆犯の成立を認めることは正当である。
実務上の射程
共犯の特定性を論じる際の基礎となる判例である。教唆犯における実行行為の特定は、必ずしも日時場所の細部までを要するものではなく、犯行の対象や方法が具体的に示されていれば足りることを示唆しており、答案上は実行決意の惹起の程度を判断する際の指標として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)4965 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】教唆者が特定の犯行場所を指示して窃盗を教唆したが、被教唆者がその指示された地点ではなく、別の場所で目的物を見つけて窃取した場合であっても、教唆の成立を妨げない。 第1 事案の概要:被告人は、当初地図を書いて養蜂箱がある特定の地点を指示し、そこから養蜂箱を窃取してくるよう教唆した。しかし、被教唆者が…