原判決によれば、被告人AはBに對して判示甲方に侵入して金品を盜取することを使嗾し、以て窃盜を教唆したものであつて、判示乙商會に侵入して窃盜をすることを教唆したものでないことは所論の通りであり、しかも、右Bは、C等三名と共謀して判示乙商會に侵入して強盜をしたものである。しかし、犯罪の故意ありとなすには、必ずしも犯人が認識した事實と、現に発生した事實とが、具体的に一致(符合)することを要するものではなく、右兩者が犯罪の類型(定型)として規定している範圍において一致(符合)することを以て足るものと解すべきものであるから、いやしくも右Bの判示住居侵入強盜の所爲が、被告人Aの教唆に基いてなされたものと認められる限り、被告人Aは住居侵入窃盜の範圍において、右Bの強盜の所爲について教唆犯としての責任を負うべきは當然であつて、被告人の教唆行爲において指示した犯罪の被害者と、本犯のなした犯罪の被害者とが異る一事を以て、直ちに被告人に本犯の犯罪について何等の責任なきものと速斷することを得ないものと云わなければならない。
ある住居侵入窃盜を教唆した場合において被教唆者がこれと異る他の被害者に對して住居侵入強盜をしたときの教唆者の罪責
刑法61條,刑法38條2項,刑法236條,刑法235條
判旨
共犯の故意が認められるためには、認識した事実と発生した事実が構成要件の範囲内で一致すれば足り、また教唆行為と正犯の実行行為との間に因果関係が必要である。
問題の所在(論点)
正犯が教唆された対象(被害者・客体)と異なる対象に対して犯罪を実行した場合、または教唆された罪種(窃盗)より重い罪(強盗)を実行した場合に、教唆犯の故意および因果関係が認められるか。
規範
1. 故意(刑法38条1項)が認められるためには、必ずしも認識した事実と発生した事実が具体的に一致することを要せず、両者が犯罪の類型(構成要件)として規定されている範囲内で符合すれば足りる。2. 教唆犯(61条1項)が成立するには、教唆行為と正犯の実行行為との間に因果関係が認められることを要する。
事件番号: 昭和23(れ)1370 / 裁判年月日: 昭和24年1月11日 / 結論: 棄却
被告人が相被告人と共謀の上、強盜をした事實を認定している原判決において、二人共謀の事實と共犯者のどちらかが現實に脅迫の實行行爲をしたことが判分上明確である以上、共犯者のうちどちらかが現實に實行行爲をしたかを明示していなくても、被告人の「罪トナルヘキ事實」の判示として缺くるところはない。
重要事実
被告人AはBに対し、F方に侵入して金品を盗取することを教唆した(住居侵入窃盗の教唆)。しかし、Bは共犯者らと共にF方へ侵入したものの、目的を遂げられず断念。その後、Bらは隣家であるG商会に侵入して強盗を行った(住居侵入強盗)。原判決は、Aの教唆とBらのG商会での犯行との間に因果関係があるとしてAの教唆犯の成立を認めたが、Bの供述によれば、F方での犯行を諦めた後、共犯者の強い主張に動かされて新たに決意してG商会への犯行に及んだ疑いがあった。
あてはめ
故意については、Aが教唆した「住居侵入窃盗」とBが実行した「住居侵入強盗」は、住居侵入窃盗の限度で構成要件が重なり合っている(抽象的事実の錯誤)。したがって、客体(被害者)が異なっていたとしても、教唆の範囲内である住居侵入窃盗の限度で故意の符合が認められる。しかし、因果関係については、BがAの教唆に基づく犯意を一旦放棄し、共犯者の主張により「決意を新たにして」別の犯行に及んだのであれば、Aの教唆行為とBの実行行為との間の因果関係が遮断される。本件では、Bが一旦帰ろうとした事実に照らし、因果関係の有無を慎重に判断すべきであるが、原判決はこの点の認定が不明確である。
結論
Aは住居侵入窃盗の範囲で教唆の責任を負いうるが、教唆行為と正犯行為との間の因果関係が確定されていないため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
抽象的事実の錯誤(重なり合い)の法理と、共犯における因果関係の必要性を説いた重要判例である。答案上では、客体の相違や罪質の相違がある場合に、まず「構成要件的重なり合い」による故意の成否を論じ、次に「教唆(共謀)に基づく実行といえるか」という文脈で因果関係を論じる際の手本となる。
事件番号: 昭和24(れ)2466 / 裁判年月日: 昭和25年2月16日 / 結論: 棄却
強盜の共謀をした者は他の共謀者の暴行脅迫強取等の實行行爲を通じて自己の犯意が實行に移された以上は、たとい、自分は直接強盜の實行行爲をしなくとも強盜の共同正犯たる罪責を免れえないものであるから共謀者の一人である被告人が判示のごとく見張行爲をした以上判示他の共謀者の脅迫、強奪行爲に對しその責を負うべきものである。されば、原…