判旨
収賄罪の「職務」とは、公務員が自ら独立の権限を有する場合に限られず、上長の指揮命令を受けて事務を取り扱う場合も含まれる。また、収賄後に身分のない第三者と共に賄賂を費消しても、当該第三者は共犯とはならず、収賄者から全額を追徴することが可能である。
問題の所在(論点)
1. 自ら独立の権限を持たず、上長の指揮命令に基づき事務を補助する公務員の行為が、収賄罪の「職務」に当たるか。2. 収受した賄賂を第三者と共に費消した場合、その第三者を共犯として扱うべきか、また収賄者から全額を追徴できるか。
規範
刑法197条1項の「職務」とは、公務員が法律上の独立した権限として行使する場合のみならず、補助的権限として上長の指揮命令を受けて当該事務を取り扱う場合も含む。また、賄賂の追徴については、収賄罪の成立後に身分のない第三者と共に費消したとしても、その第三者を共犯(刑法65条、60条等)と解することはできず、収賄者本人が収受した全額を追徴の対象とする。
重要事実
被告人はたばこの監視員であり、たばこ専売法違反事件について自ら独立の告発権限を有していなかった。しかし、上長の指揮命令を受けて告発に関する事務を取り扱っていた。被告人は、当該事務に関連して酒の供与(賄賂)を受け、収受した後にその酒を身分のない他人と共に飲酒した。第一審判決は、この「職務」に関連した収受を収賄罪として認め、供与された賄賂の全額について被告人から追徴することを命じたため、被告人側が職務権限の不存在および追徴額の不当を理由に上告した。
あてはめ
1. 職務性について、被告人は独立の告発権限はないものの、上長の指揮命令下で実務として告発事務を分担しており、その事務の公正さは保護されるべきである。したがって、被告人の所為は「職務に関するもの」といえる。2. 追徴について、賄賂罪は収受時に完成する。被告人が収受した後に第三者と共に飲酒した事実は、罪の成立後の事情に過ぎない。この第三者は収賄罪の構成要件を共に充足する共犯関係にはなく、被告人が収受した利益全額を保持・費消したものと評価できるため、全額の追徴が正当化される。
結論
被告人の行為は収賄罪の職務に関連し、収受した賄賂の全額を被告人から追徴することは適法である。
実務上の射程
収賄罪における「職務」の範囲を補助的職務にまで広げる基準として重要である。また、追徴の場面において、収賄後に賄賂を第三者と共有・消費した場合でも、収受の主体が本人であれば全額追徴が可能であることを示しており、没収・追徴の算定実務で活用される。
事件番号: 昭和26(れ)774 / 裁判年月日: 昭和26年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賄賂罪における公務員の職務権限は、法令上の明文に限定されず、慣行や実質的な事務処理の態様を含めて判断されるべきである。原審が認定した被告人の職務権限は妥当であり、刑訴法411条を適用すべき事由はない。 第1 事案の概要:被告人は公務員の地位にあり、特定の事務に関与していたが、弁護人側はその事務が被…