判旨
他人の財物を窃取した行為について、詐欺罪や業務上横領罪の成否が問題となったが、本件の事実関係の下では窃盗罪の成立が認められる。
問題の所在(論点)
被告人が財物を取得した行為が、窃盗罪(刑法235条)、詐欺罪(同246条)、または業務上横領罪(同253条)のいずれに該当するか。特に、占有の帰属および占有移転の態様が問題となる。
規範
財物の占有が自己にあるか他人に認められるかは、財物に対する事実上の支配の有無により判断される。他人の占有下にある財物を、その意思に反して自己の占有に移転させた場合には窃盗罪が成立し、自己の占有下にある他人の財物を不法に領得した場合には横領罪が成立する。また、欺罔行為により相手方の処分行為を引き出して財物を移転させた場合には詐欺罪が成立する。
重要事実
被告人が行った複数の行為(判決文中の理由第一の(三)の(1)(3)(4)(6)(7)に記載された五個の事実)について、第一審は窃盗罪の成立を認めた。これに対し、上告人は、これらの事実が詐欺罪または業務上横領罪に該当すべきものであると主張し、窃盗罪とした原判決には判例違反があると主張して上告した。具体的な実行行為の態様については本判決文からは不明である。
あてはめ
最高裁判所は、上告人が引用した詐欺罪や業務上横領罪の成立を認める各判例について、いずれも本件の事例には適切ではないと判断した。すなわち、本件の具体的な事実関係に照らせば、被告人による財物の取得は、被害者の意思に基づく処分行為(詐欺罪の要件)や、被告人による適法な占有(横領罪の要件)を前提とするものではなく、他人の占有を侵害する窃取行為に該当すると解される。したがって、第一審および控訴審が窃盗罪の成立を認めた判断に判例違反は認められない。
結論
本件各事実は窃盗罪に該当し、詐欺罪や業務上横領罪を構成しないとした原判決は正当であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、窃盗・詐欺・横領の区別が微妙な事案において、占有の所在と移転態様の検討が重要であることを示唆している。答案上は、まず「占有」が誰にあるかを確定し、その占有を奪う行為(窃取)なのか、瑕疵ある意思に基づく交付(詐欺)なのか、自己の占有下での領得(横領)なのかを事実に基づいて論じ分ける必要がある。ただし、本判決自体は当てはめの詳細を具体的に示していないため、結論に至るロジックの補強として「本件事情下では他人の占有侵害が認められる」という形で利用することになる。
事件番号: 昭和28(あ)4185 / 裁判年月日: 昭和28年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】財物の移転が占有者の任意の交付によらない場合には、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が他人の財物を取得した事案において、弁護人は詐欺罪の成立を示唆する判例を引用して上告したが、本件の実態は被害者による財物の「任意の交付」が認められない態様での占有移転であった(詳細な具体的態…