控訴裁判所は、検察官乃至被告人の控訴趣意に対し何等、新らたに事実の取調乃至証拠調もなすことなく、訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、いわゆる破棄自判の判決をすることができるのであり、本件におけるがごとく第一審裁判所が犯罪の証明がないという理由で無罪とした事案に対し、控訴裁判所が刑訴四〇〇条但書に従い事実の取調をしないで有罪の認定をすることも違法ではないのである。
控訴審における事実認定と事実取調の要否
刑訴法393条,刑訴法400条但書
判旨
控訴裁判所が、新たな事実の取調べを行うことなく、第一審の訴訟記録と証拠のみに基づいて第一審の無罪判決を破棄し、自ら有罪を言い渡すことは、憲法37条2項前段に違反せず、刑事訴訟法400条但書に基づき適法である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法400条但書に基づき、控訴裁判所が新たな事実取調べをせずに、第一審の証拠のみから無罪判決を破棄して有罪を認定することが、憲法37条2項前段(証人の審問権)に違反し、許されないのではないか。
規範
控訴裁判所は、検察官または被告人の控訴趣意に対し、新たに事実の取調べや証拠調べを行うことなく、訴訟記録および第一審裁判所において取り調べた証拠のみによって、いわゆる破棄自判の判決をすることができる。憲法37条2項前段の趣意は、裁判所が喚問した証人について被告人に反対尋問の機会を十分に与えなければならないという点にあり、第一審の証拠のみに基づいて判断する場合には同条項違反の問題は生じない。
重要事実
第一審裁判所が、犯罪の証明がないことを理由に被告人に対し無罪の判決を言い渡した。これに対し、控訴裁判所(原審)は、事実の取調べを新たに行うことなく、第一審の訴訟記録および証拠のみを精査した結果、第一審判決を破棄し、被告人を有罪とする判決(破棄自判)を言い渡した。被告人側は、このような手続が憲法37条2項前段(証人尋問権・反対尋問権)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
控訴裁判所は、刑事訴訟法の規定に従い、第一審の訴訟記録および証拠資料を検討することで事後的に判断を下す職責を負う。本件において原審は、第一審で既に証拠調べが完了し、被告人に反対尋問の機会が保障されていた証拠群に基づき、事実認定の誤りを是正したものである。憲法37条2項前段は、あくまで証人が喚問された際に対決の機会を保障することを求めるものであり、既に適法に証拠調べがなされた記録に基づいて判断を覆す手続を禁じるものではない。したがって、実質的な反対尋問権の侵害はなく、適法な破棄自判といえる。
結論
第一審の無罪判決を、事実取調べなしに訴訟記録のみで破棄し有罪を認定することは、憲法37条2項前段に違反せず、刑事訴訟法上も適法である。
実務上の射程
控訴審における「事後審的性格」を肯定する根拠として重要である。ただし、後の大法廷判決(昭和31年等)により、第一審の供述証拠の信用性を否定して有罪とする場合には、原則として改めて証拠調べが必要とされる等、本判決の法理には一定の限定が加えられている点に注意が必要である。答案上は、控訴審の破棄自判の許容限界を論ずる際の出発点として位置づける。
事件番号: 昭和30(あ)456 / 裁判年月日: 昭和32年12月27日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決が起訴にかかる第一ないし第三の公訴事実を犯罪の証明がないとして、被告人に対し無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、第一、第二の公訴事実につきみずから事実の取調を行うことなく、もつぱら第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて右第一ないし第三の犯罪事実の存在を確定し、有罪の判決をすることは、刑…