第一審判決が起訴にかかる第一ないし第三の公訴事実を犯罪の証明がないとして、被告人に対し無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、第一、第二の公訴事実につきみずから事実の取調を行うことなく、もつぱら第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて右第一ないし第三の犯罪事実の存在を確定し、有罪の判決をすることは、刑訴第四〇〇条但書の許さないところである。
刑訴法第四〇〇条但書に違反する一事例
刑訴法400条,刑訴法54条,刑訴規則63条,憲法37条
判旨
控訴審が第一審の無罪判決を破棄して被告人に対し有罪の判決をする場合には、自ら事実の取調べを行う必要があり、これを行わずに第一審の証拠のみで有罪とすることは刑事訴訟法400条但書の許容しないところである。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪判決(自判)を下す際、実質的な事実の取調べを全く行わず、第一審の記録のみに基づいて有罪認定を行うことは、刑事訴訟法400条但書に照らして許されるか。
規範
刑事訴訟法400条但書に基づき、控訴裁判所が第一審判決を破棄して直ちに被告人に対し有罪判決を下すためには、第一審で取り調べた証拠のみに依拠するのではなく、控訴審自らが事実の取調べを行うことを要する。
重要事実
第一審裁判所は、被告人の公訴事実について証明不十分として無罪を言い渡した。これに対し検察官が控訴したところ、原審(控訴審)は、一部の公訴事実について自ら事実の取調べを行うことなく、専ら第一審が取り調べた証拠のみによって犯罪事実の存在を認定し、第一審判決を破棄して有罪判決を言い渡した。
あてはめ
本件では、原審は第一および第二の公訴事実について、自ら事実の取調べを一切行っていない。先行する大法廷判決の趣旨に照らせば、第一審が証拠不十分として無罪とした事案において、控訴審が独自の証拠調べをせずに第一審の証拠のみで有罪の確信を得て自ら判決を下すことは、適正な事実認定の観点から同条の許容範囲を逸脱するものといえる。
結論
原判決は刑事訴訟法400条但書の解釈を誤った違法があるため破棄を免れない。本件を原審に差し戻すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟法400条但書の「自判」の限界を示す。実務上、無罪から有罪へ逆転させる場合には、直接主義・口頭主義の観点から、控訴審独自の証拠調べ(特に供述証拠の直接取り調べ等)が不可欠であることを強調する際に引用される。
事件番号: 昭和27(あ)5877 / 裁判年月日: 昭和31年9月26日 / 結論: 破棄差戻
一 第一審判決が起訴にかかる公訴事実を認めるに足る証明がないとして、被告人に対し、無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決は事実を誤認したものとしてこれを破棄し、自ら何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録および第一審裁判所で取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について、犯罪事実の存在を確定し有罪の判決することは…