第一審裁判所が鑑定その他の証拠調をした上、被告人には是非善悪を弁別しこれに基いて行動する能力があると認めるに足る精神状態の存在は認められないから被告人は犯行当時心神喪失の状態にあつたとして無罪の判決を言渡したのに、控訴審が何ら事実の取調をしないで訴訟記録および第一審裁判所で取り調べた証拠だけによつて第一審判決を破棄し、自ら被告人は犯行当時心神耗弱の状態に在つたものとして有罪の判決を言い渡すのは刑訴第四〇〇条但書の許さないところである。
刑訴法第四〇〇条但書に違反する一事例
刑法39条,刑訴法400条但書
判旨
控訴審が第一審の心神喪失による無罪判決を事実誤認として破棄し、自ら有罪判決を言い渡すには、自ら事実の取調べを行うことを要する。
問題の所在(論点)
第一審が被告人を心神喪失として無罪とした判決に対し、控訴審が事実の取調べを行わず、記録のみに基づき心神耗弱(有罪)と認定して破棄自判することが、刑事訴訟法400条但書の許容する範囲内か。
規範
控訴審において、被告人に刑事責任を負わせるに足りる精神状態の存在は認められないとして無罪を言い渡した第一審判決を、事実誤認を理由に破棄して自判により有罪を言い渡すには、控訴審は自ら事実の取調べを行うことを要し、さもなければ第一審に差し戻すべきである(刑訴法400条但書違反)。
重要事実
被告人は、窃盗未遂等の事実で起訴された。第一審は、精神鑑定書や公判廷における被告人の態度等に基づき、被告人が犯行当時心神喪失の状態にあったと認めて無罪を言い渡した。これに対し控訴審(原審)は、事実の取調べを一切行うことなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき、被告人を心神耗弱にとどまるとして第一審判決を破棄し、有罪判決を自ら言い渡した。
あてはめ
第一審判決は、複数の鑑定書、証人尋問、および公判廷での被告人の供述や「態度」を総合して心神喪失の心証を得ている。これに対し、控訴審は、第一審が重視した被告人の態度等を直接確認することなく、書面審査のみで精神状態の評価を覆した。このような判断過程は、直接主義・口頭主義の観点から適切な事実認定を欠くものであり、刑訴法400条但書が定める「訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて直ちに判決をすることができる」場合(自判の要件)には該当しない。
結論
控訴審が自ら事実の取調べを行わずに第一審の無罪判決を破棄し、有罪を自ら言い渡した原判決には刑訴法400条但書違反の違法がある。原判決を破棄し、名古屋高裁に差し戻す。
実務上の射程
第一審が無罪(心神喪失等)とした判断を控訴審が覆して有罪自判する場合の制約を明示した判例である。事実認定の基礎となった証拠に供述や被告人の態度が含まれる場合、控訴審が独自の事実取調べを経ずに逆転自判することは許されないという、実地的な直接主義の要請を示すものとして答案で活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)6834 / 裁判年月日: 昭和29年7月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審が第一審の無罪判決を破棄し、直接証拠調べを行うことなく自判により有罪を言い渡すことは、刑事訴訟法上許容される。 第1 事案の概要:被告人が第一審において無罪判決を受けたのに対し、控訴審(原審)は第一審の証拠の取捨選択が経験則に反し、事実誤認があるとして破棄した。その上で、控訴審は自ら独自の証…