強姦致傷の公訴事実について第一審が、単なる傷害罪と認定処断したのに対し、控訴審が何ら自ら事実の取調をしないで第一審判決を事実誤認があるとして破棄し、訴訟記録並びに第一審で取り調べた証拠のみによつて、直ちに強姦致傷の事実を認定処断することは、刑訴第四〇〇条但書に違反するものである。
刑訴法第四〇〇条但書に違反する一事例
刑法204条,刑法181条,刑訴法400条
判旨
控訴審が第一審の事実誤認を理由に判決を破棄し、自ら異なる犯罪事実を認定して自判する場合、控訴審において自ら事実の取調べを行う必要があり、これを行わず直ちに第一審の証拠のみで重い犯罪事実を認めることは刑事訴訟法400条但書に違反する。
問題の所在(論点)
控訴審が、第一審が認定した事実を事実誤認として破棄し、自ら第一審とは異なる重い犯罪事実を認定して自判する(刑事訴訟法400条但書)際に、控訴審独自の事実の取調べを経ずに第一審の証拠のみに依拠することが許されるか。
規範
控訴審において、第一審の認定した事実を誤認として破棄し、自判によって第一審より重い犯罪事実(例:傷害から強姦致傷へ)を認定処断するには、控訴審において自ら事実の取調べを行うことを要する。これを行わない場合には、刑訴法400条但書の趣旨に基づき、第一審に差し戻すべきである。
重要事実
被告人は強姦致傷の犯罪事実で起訴されたが、第一審は暴行の程度が反抗を抑圧するに足りないとして傷害罪の成立に留め、懲役1年(執行猶予付)を言い渡した。これに対し検察官が事実誤認を理由に控訴。控訴審は、自ら事実の取調べを行うことなく、第一審の訴訟記録及び証拠のみに基づいて第一審判決を破棄し、強姦致傷の事実を認定して懲役3年の実刑を言い渡した。
あてはめ
本件では、第一審が「相手方が強く抵抗しないのに乗じてのしかかった」として傷害罪を認定したのに対し、原審(控訴審)は、独自の証拠調べを経ることなく、第一審の記録のみから「口を塞ぎ『動くと承知せんぞ』と脅迫して反抗を抑制した」として強姦致傷という、より重い態様の事実を認定している。このように第一審の認定を覆し、直接の取調べを経ずに不利益な事実を認定することは、事後審的性格を有する控訴審の限界を超え、適正手続を担保する観点から許されないといえる。
結論
原判決には刑訴法400条但書に違反する違法があるため、原判決を破棄し、事件を福岡高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
控訴審が「事実誤認」を理由に第一審の無罪を有罪に、あるいは軽い罪を重い罪に覆す場合には、必ず控訴審独自の証拠調べを要するという実務上の原則(直接主義・口頭主義の要請)を示す射程を持つ。答案上は、控訴審の自判の限界や事実誤認の審査の文脈で引用すべき重要判例である。
事件番号: 昭和36(あ)1176 / 裁判年月日: 昭和36年9月6日 / 結論: 棄却
被告人が控訴をし又は被告人のため控訴をした事件につき、控訴審が第一審の認定した事実よりも被告人に不利益な事実を認定しても、判決主文において第一審判決より重い刑を言い渡さない以上、刑訴四〇二条に違反しないと解すべきである。(昭和二三年一一月一八日第一小法廷判決刑集二巻一二号一六二六頁参照)