一 舊刑訴法四〇三條において、原判決の刑より重い刑を言渡すことができないと規定した趣旨は、言渡刑のみに關するものであつて、控訴審が原判決の認定したところより重い法廷刑の罪に當る犯罪事實を認定してはならないという意味でないことについては當裁判所のしばしば判決するところである。それゆえ、原審が本件公訴事實につき漂流物横領罪と認定した第一審判決を變更して賍物運搬罪にあたる犯罪事實を認定したことは舊刑訴法第四〇三條に違反するものではない。 二 第一審判決においては懲役刑(八月)だけを言い渡しているのに原判決は懲役刑(六月)の外罰金刑(千圓)(五〇圓を一日に換算)をも併科しているが、その懲役刑は第一審判決より輕く量定されているのであるから、前記法條に違反するところはない(昭和二四年(れ)第一二二五號同年七月五日當裁判所第三小法廷判決參照)。
一 第一審認定の漂流物横領罪を第二審が決定刑の重い賍物運搬罪と認定したことと不利益變更の禁止 二 第一審で懲役八月を科し第二審で懲役六月に罰金千圓を併科した場合と不利益變更の禁止
舊刑訴法403條
判旨
不利益変更禁止の原則は言い渡される刑そのものに関する制限であり、原判決より重い法定刑の罪に当たる事実を認定することや、刑の一部を加重しても全体として軽くなれば許容される。
問題の所在(論点)
不利益変更禁止の原則(旧刑訴法403条)において、控訴審が第一審よりも重い法定刑の罪を認定すること、および懲役刑を減軽しつつ新たに罰金刑を併科することが許されるか。
規範
不利益変更禁止の原則(旧刑訴法403条、現行402条)の趣旨は、被告人の上訴権行使を保障するため、言い渡される刑のみを制限するものである。したがって、控訴審が原判決の認定した罪より重い法定刑の罪にあたる犯罪事実を認定することは妨げられない。また、刑の種類が複数併科される場合であっても、宣告される刑の全体を比較して原判決の刑より重くなければ、同条に違反しない。
重要事実
第一審判決は、被告人の行為を漂流物横領罪(現行の遺失物等横領罪に相当)と認定し、懲役刑のみを言い渡した。これに対し、控訴審判決(原判決)は、犯罪事実をより法定刑の重い贓物運搬罪(現行の盗品等運搬罪に相当)に変更して認定した。その際、原判決は第一審より軽い懲役刑を定めた上で、新たに罰金刑を併科した。
あてはめ
まず、本条の制限は「言い渡し刑」そのものに向けられたものであり、認定される罪名や事実の軽重を直接規制するものではない。したがって、漂流物横領罪から贓物運搬罪への認定変更は適法である。次に、刑の重さの比較については、第一審の懲役刑に対し、原判決は懲役刑の期間を短縮(減軽)しており、新たに罰金刑が併科されたとしても、宣告刑全体として第一審の刑を超えない範囲内での量刑であれば、被告人に不利益な変更とはいえない。
結論
被告人の上訴に基づき、原判決が第一審より重い罪名を認定し、あるいは刑の種類を組み合わせて言い渡したとしても、宣告刑全体が重くなっていなければ不利益変更禁止の原則に違反しない。
実務上の射程
本判決は不利益変更の対象が「宣告刑」であることを明確にしている。答案上、罪名が重くなった場合や、主刑と付加刑の組み合わせが変わった場合でも、全体の実質的な刑の軽重で判断する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)2843 / 裁判年月日: 昭和25年4月4日 / 結論: 棄却
論旨は、原判決が被告人を懲役一年六月に處したのは、第一審判決の刑より重い刑を言渡したものであつて、舊刑訴法四〇三條に反するというのである。しかし被告人は、本件第一審において懲役一年以上三年以下の不定期刑の言渡を受けその判決に對して控訴し、また別件第一審において懲役一年の刑に處せられその判決に對して控訴し、原裁判所は右二…