判旨
物価統制令違反の行為後に統制額を指定した告示が廃止されても、刑罰規定自体が廃止されない限り「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には該当せず、行為時法により処罰される。また、統制額が異なる類似品との誤信があっても、その誤信が被告人にとってより低い統制額の適用を前提とするものであれば、故意を阻却しない。
問題の所在(論点)
1. 行為後に価格統制の告示が廃止された場合、刑法6条等の「刑の廃止」に該当するか。 2. 統制額がより低い類似品(大羽いわし)であると誤信して、より高い価格で買い受けた場合、物価統制令違反の故意は認められるか。
規範
物価統制令に基づき価格等の統制額を指定した告示が廃止されたとしても、それは「犯罪後の法令に因り刑の廃止ありたるとき」(旧刑訴法363条2号、現刑法6条・刑訴法337条2号参照)には該当しない。したがって、行為時に施行されていた法令(行為時法)に基づいて処罰される。また、事実の錯誤に関しては、認識した事実が実際の事実よりも軽い罪に当たる場合にはその重い罪で処断することはできないが、認識した事実がより重い罪(または同等)に当たる場合には、故意の成立は妨げられない。
重要事実
被告人は、物価統制令に違反して「小羽いわし」を当時の統制価格を超えて買い受けたとして起訴された。被告人は上告において、(1)行為後に当該統制額を指定した告示が廃止されたため刑が廃止されたと主張し、(2)事案の事実として「小羽いわし」を「大羽いわし」と思い違えて買い受けたという錯誤があったと主張した。なお、当時の告示によれば「大羽いわし」の統制価格は「小羽いわし」よりも低く設定されていた。
あてはめ
1. 告示の廃止は事実上の変更にすぎず、物価統制令という刑罰規定自体が改廃されたわけではないため、法令による刑の廃止には当たらない。 2. 被告人は「小羽いわし」を、それよりも統制価格が低い「大羽いわし」であると誤信したと主張するが、仮に「大羽いわし」であったとしても当該買受価格は統制額を超過することになり、違法性の認識の基礎となる事実は具備されている。むしろ、より制限の厳しい(価格が低い)対象物であると誤信していたことは、被告人の主観において、客観的状況よりもさらに重い違反を犯す認識があったことを意味するため、故意を否定する理由にはならない。
結論
1. 告示の廃止は「刑の廃止」に該当せず、行為時法により処罰される。 2. より統制額が低い物品との誤信は、結論として被告人の不利益な主張に帰着し、故意を阻却しない。上告棄却。
実務上の射程
限時法や委任命令・告示の改廃と「法律の変更」の区別に関する重要判例。事実上の変更(政策的判断)による改廃は、遡及して処罰を免れさせるものではないという判断枠組みを示す。また、構成要件的錯誤において「重い事実を認識して軽い罪を犯した場合」に軽い方の罪の範囲で故意を認める法理の傍証としても活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1145 / 裁判年月日: 昭和26年1月23日 / 結論: 棄却
一 原判決が確定した事実は被告人が統制額を超過する価額で甘藷を販売する目的でこれを所持していたという物価統制令第一三条ノ二違反の事実であつて、右事実を同条違反の罪に問擬する場合には、その行為の当時その物資に統制額が存すればよいので、その統制額を指定した告示の適用を判決において示す必要はない。 二 昭和二二年九月二八日物…