所論の物件が戦時罹災土地物件令第一八条の規定によつて国庫に帰属していたとしても昭和二〇年一〇月一九日付の東京都経済局長から各区長宛の所論(戦災地発生金属類の清掃回収に関する件)通牒による金属類回収の事実が打切られた昭和二〇年一一月二〇日限り国の所有件が抛棄されて無主物となつたとは認められない。然らば右物件は他人の所有にかかる物であるから原判決がこれにつき判示窃盗罪及び詐欺罪を認めたことは正当であつて論旨は採用できない。
戦時罹災土地物件令第一八条により一旦国庫に帰属したが回収を打切られた物に対する財産犯の成否
刑法235条,刑法246条,昭和20年勅令411号戦時罹災土地物件令18条
判旨
国庫に帰属した物件について、金属類回収事業の打切りを告げる行政上の通牒があったとしても、直ちに国の所有権が放棄され無主物となったとは認められない。したがって、当該物件は「他人の財物」に該当し、窃盗罪及び詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
刑法235条(窃盗罪)及び246条(詐欺罪)の客体である「他人の財物」の解釈が問題となる。具体的には、国が回収事業を打ち切ったことにより、国庫帰属物件の所有権が放棄され、無主物(「他人の財物」ではない物)になったといえるか。
規範
国庫に帰属した物件の所有権の帰属については、行政上の事業打切りの通牒があったとしても、特段の事情がない限り、当然に所有権が放棄され無主物になるものではない。刑法上の「他人の財物」とは、自己以外の者が所有権を有する物を指す。
重要事実
戦時罹災土地物件令18条に基づき、対象物件は国庫に帰属していた。その後、昭和20年10月19日付で東京都経済局長から各区長に対し、金属類回収事業を同年11月20日限りで打ち切る旨の通牒が出された。被告人は、当該事業の打切りにより物件が国の所有を離れ無主物になったと主張して、物件を領得等したことで、窃盗罪及び詐欺罪に問われた。
あてはめ
本件物件は法令により一度国庫に帰属しており、国の所有物となっている。これに対し、被告人が根拠とする東京都経済局長の通牒は、あくまで行政上の回収事業の終了を告げる事務連絡に過ぎない。このような通牒のみをもって、国が所有権という私法上の権利を確定的に放棄したと認めることはできない。したがって、事業打切り日以降も物件の所有権は依然として国に留まっており、無主物となったとは認められない。よって、本件物件は「他人の(国の)所有にかかる物」であると評価される。
結論
被告人の行為は他人の財物を対象とするものであり、窃盗罪及び詐欺罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
行政上の事業終了や放置の事実が、直ちに所有権の放棄(無主物化)を意味しないことを示した。答案上、占有離脱物横領罪と窃盗罪の区別とは別に、そもそも客体が「他人の財物」といえるか(無主物先占の成否)が争点となる場合に、所有権放棄の認定を厳格に行う根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1552 / 裁判年月日: 昭和26年10月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。本判決は、この意思の有無が窃盗罪の成否を分ける重要要件であることを前提としている。 第1 事案の概要:被告人AおよびBが、他人の財物を窃取したとして起訴された事案である。被告人らは上告にお…