証人Aと証人Bの各証言中に所論の如く相互に一致しない部分のあることは論旨の指摘するとおりであるが、その齟齬する点は判示罪となるべき事実の点に関するものではなく、論旨も認めているように、本件犯行発覚当時の情況に関するものであり、証人Aは被害者Bに被害事実を告知した旨、また証人Bは自ら被害事実を覚知した旨それぞれ供述しているに過ぎないのであつて、右両個の証言中にかかる主観的齟齬があつてもこれがために直ちにそれらの証言に証拠価値なしということはできない。元来証言なるものは或る事実に対する証人の主観的認識をその記憶するところに従つて供述せられるものに外ならないのであるから同一の客観的出来事に関する各証人の供述と雖も各人の注意力記憶力等の関係から微細の点にいたるまで一致するものでないことはむしろ通例であつて、それらの各証言の証拠価値は事実審裁判所が諸般の事情を斟酌して判断するところに委ねられているのである。
各証人間の証言にくいちがいがある場合と証拠価値の判断
旧刑訴法337条
判旨
複数の証人の供述間に一部の齟齬があっても、その証拠価値は事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。特に、齟齬が犯罪の主要な事実に関するものでなく、通例生じ得る主観的認識の相違にとどまる場合は、直ちに証拠能力や証明力を否定すべきではない。
問題の所在(論点)
証人供述間に主観的な事実認識の齟齬がある場合に、当該証言を犯罪事実の認定資料として採用することが許されるか。証拠の証明力判断における事実審の裁量権の範囲が問題となる。
規範
証言は証人の主観的認識と記憶に基づくものであるため、同一の客観的事実について各証人の供述が微細な点まで一致しないことは通例である。したがって、証言間の齟齬の存在のみをもって直ちに証拠価値を否定することはできず、諸般の事情を斟酌して各証言の証拠価値を判断することは事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
重要事実
被告人は有罪と認定されたが、弁護人は証人Aと証人Bの証言の齟齬を理由に事実認定制限の違法を主張した。具体的には、本件犯行の発覚当時の状況に関し、証人Aは「被害者Bに被害事実を告知した」旨を供述し、証人Bは「自ら被害事実を覚知した」旨を供述していた。原審はこれらの証言を総合して事実を認定したが、上告人はこれが実験則に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件における証人AとBの証言の齟齬は、犯罪の構成要件に直接関わる点ではなく、犯行発覚時の付随的な状況に関する主観的な認識の差に過ぎない。このような齟齬は各人の注意力や記憶力の関係から生じる通例の範囲内であるといえる。したがって、原審が他の証拠と相俟ってこれらの証言を総合的に認定資料としたことは、証拠の取捨選択に関する事実審の合理的な裁量権の範囲内であると解される。
結論
証人供述の細部に齟齬があっても、直ちにその証拠価値が否定されるものではなく、原審の証拠評価に違法はない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における証拠の証明力(自由心証主義)に関する基本判例である。答案上では、証人供述の信用性を検討する際、些末な矛盾点を突いて供述全体の信用性を否定しようとする主張に対し、「主要な事実において一貫性があるか」「齟齬が人間の記憶の限界として許容範囲内か」を論じる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1737 / 裁判年月日: 昭和26年4月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の採否及び事実の認定は原審の自由裁量に属する事項であり、これに対する不服は適法な上告理由に当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決の事実認定に不服を申し立て、弁護人が証拠の採否や事実誤認を主張して上告を提起した事案。 第2 問題の所在(論点):原審における証拠の採否および事実認定の妥当性…