被害者が夜間被告人方に押しかけ、戸締りしてある表入口の戸を強いて取はずして屋内に侵入し被告人を殴打したため、被告人が憤激の余り日本刀をもつて被害者を刺殺した事実を認定しながら、被告人の右行為が盗犯等の防止及処分に関する法律第一条に該当するとの弁護人の主張に対し、何等の理由をも説明しないで、単に被告人の右行為は同条所定の各号の執れの場合にも該当しないと判示して右主張を排斥したのは理由齟齬の違法がある。
盗犯等の防止及処分に関する法律第一条に該当するとの主張に対する判断に理由齟齬のある事例
盗犯等の防止及処分に関する法律1条,旧刑訴法360条2項,旧刑訴法410条19号
判旨
盗犯等防止法1条1項3号の「故なく人の住居に侵入したる者」を「排斥せんとするとき」に殺傷した場合や、同条2項の「興奮又ハ狼狽ニ因リ」殺傷した場合には、正当防衛の要件を緩和し、又は不可罰とする余地がある。
問題の所在(論点)
住居侵入者による暴行に対し、相手が制止されている状況下で殺害した行為について、盗犯等防止法1条1項(正当防衛の特例)又は同条2項(興奮・狼狽による不可罰)が適用される余地があるか。
規範
1. 盗犯等防止法1条1項は、同項各号(3号:故なく人の住居に侵入した者等)の侵害を排斥しようとするに際し、自己又は他人の生命、身体又は貞操に対する現在の危難を排除するため、犯人を殺傷した場合について、防衛の程度を超えても罰しない(正当防衛の特例)とする。 2. 同条2項は、右の侵害を排斥するに当たり、恐怖、驚愕、興奮又は狼狽により、現場で犯人を殺傷したときは罰しない(不可罰の過剰防衛)とする。
重要事実
被告人は農地測量を巡りAから恨みを買っていた。Aは飲酒酩酊して被告人宅に二度押し掛け、被告人は身を隠して避けたが、三度目の襲撃に備え日本刀を準備して就寝した。午後11時頃、Aは戸締まりを強引に外して住居内に侵入し、被告人の額を殴打した。Aの兄Cが背後からAを抱き止めて制止していたが、被告人は憤激のあまり、殺意を抱きつつ日本刀でAの左季肋部を突き刺し、失血死させた。原審は、Cが制止しており暴行の恐れがなかったとして、正当防衛及び盗犯等防止法の適用を否定した。
事件番号: 昭和23(れ)1469 / 裁判年月日: 昭和24年7月13日 / 結論: 棄却
一 銃砲等所持禁止令附則大二項所定の所持許可の申請期間は同令第一條第一項第一乃至四號に該當する銃砲等について定められたものであつて、かかる銃砲等についても、右の許可申請をしないときは、右期間内の所持も不法であるとなすこと當裁判所の判例に示されている通りである(昭和二二年(れ)第一八一號、昭和二三年四月一七日第二小法廷判…
あてはめ
1. Aが戸締まりを外して夜間に侵入した事実は、同条1項3号の「故なく人の住居に侵入したる者」に明白に該当する。また、被告人の突き刺し行為は、侵入したAを「排斥せんとするとき」になされたものといえる。 2. 被告人は度重なる執拗な襲撃を受け、夜間に住居に侵入されて殴打された直後の状況にあり、認定事実に示された「憤激」は、同条2項にいう「興奮又ハ狼狽」の状態に該当し得る。 3. 原審がこれらの法的可能性を検討せず、単に同条の各号に該当しないとして排斥したのは、理由齟齬の違法がある。
結論
盗犯等防止法1条1項又は2項の適用可能性を否定した原判決には理由齟齬があるため、破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
住居侵入を伴う急迫不正の侵害に対し、防衛行為が過剰となった場合でも、同法を適用して処罰が減免・免除される範囲が広いことを示す。特に「憤激」を2項の「興奮」と結びつける構成は実務上重要である。
事件番号: 昭和25(あ)1243 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
本件第一審判決は、弁護人の正当防衛の主張を排斥して「Aが拳銃を携えていたことは認め得るが、同人が拳銃を被告人の心臓部に突き付けたということは之を認め難く、従つて未だ急迫不正の侵害行為があつたとは謂い得ない」と判示し、原判決もこの認定を是認したのである。「被害者が拳銃を所持していたことを認め」たからとて、それは必ずしも所…
事件番号: 昭和23(れ)756 / 裁判年月日: 昭和23年11月13日 / 結論: 棄却
原審に於ては被告人からも、辯護人からも、被告人の行爲が正當防衞に出たものであるということは主張されていないのであるから原審がこの點についての判斷を示さなかつたのは當然である。
事件番号: 昭和25(れ)1449 / 裁判年月日: 昭和26年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認を理由とする上告は、刑事訴訟法応急措置法13条2項に基づき、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が上告を提起したが、弁護人が主張した上告趣意の内容は事実誤認を主張するものであった。 第2 問題の所在(論点):事実誤認の主張が、当時の刑事訴訟手続(刑事訴訟法応急措置法等)…
事件番号: 昭和28(あ)5025 / 裁判年月日: 昭和30年10月25日 / 結論: 棄却
被告人が被害者と対面するにおいては攻撃を受ける蓋然性が覆い状況の下に、被害者に対面して謝罪させ相手が攻撃して来たらこれに立ち向うため日本刀一振を拔身のまま携え、被害者の様子を窺ううち、被害者が被告人を認め矢庭に出刃庖丁をもつて突きかかつて来た場合、被害者が不正な侵害は急迫なものといえず、被告人の被害者に加えた傷害行為は…