判旨
委託を受けて自己の腕にはめた他人の腕時計を、返還せずに売却した行為は、占有離脱物横領罪ではなく、刑法252条の単純横領罪を構成する。占有が所有者の意思に基づき、偶然の離脱でない場合は「自己の占有する他人の物」に該当する。
問題の所在(論点)
所有者の意思に基づき受託者が装着した物の横領が、単純横領罪(刑法252条1項)と占有離脱物横領罪(同254条)のいずれに該当するか。
規範
刑法252条1項の「自己ノ占有スル他人ノ物」とは、所有者の意思に基づき、受託者が当該物を事実上または法律上に支配・管理している状態をいう。これに対し、所有者の意思に基づかず偶然に占有を離れた物は、刑法254条の占有離脱物にあたる。
重要事実
被告人は、友人Aが腕から外していたA所有の腕時計を、自らの腕にはめて占有するに至った。Aの供述によれば、Aは被告人が時計をはめていたことは記憶しているが、その後に返却を受けた記憶はなかった。被告人は、当該時計を占有保管中に、ほしいままに第三者へ売却して横領した。
あてはめ
本件時計は、Aが腕から外していた際に被告人が自らの腕にはめたものであり、Aもその事実を認識していた。したがって、本件時計がAの意思に基づかず全く偶然に占有を離れた物ということはできず、被告人の占有は委託関係に基づく「自己の占有」と解される。そのような占有下にある他人の物を売却した行為は、委託の任務に背いて不法領得の意思を発現させるものといえる。
結論
被告人が友人から預かり自己の腕に装着していた腕時計を売却した行為には、刑法252条1項が適用され、単純横領罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、単純横領と占有離脱物横領の区別が、目的物の占有移転に「所有者の意思」が介在しているか否かにあることを示している。答案上では、占有取得の経緯(委託の有無)を具体的事実から検討し、252条の「自己の占有」を認定する際の根拠として活用すべきである。
事件番号: 昭和23(れ)785 / 裁判年月日: 昭和23年11月20日 / 結論: 棄却
原判決は、本件タイヤはAが、被告人に交付したものであることを認定したのであつて、原判決舉示の證據によればAは被告人から「このタイヤはここに置いて行け」と云はれたので被告人の面前でこれを路上において自轉車に乘つて逃げた。かくして、右タイヤは被告人の占有に歸した事實、すなわち、原判示にいわゆる「交付」の事實を認定することが…