判旨
判決書に被告人の氏名の誤記があっても、本籍、住居、職業、年齢等の記載により被告人の同一性が特定できる場合には、被告人の特定を欠く違法はない。また、盗品等関与罪における知情の事実は、取引の態様や事後処理等の間接事実を総合して認定することが可能である。
問題の所在(論点)
1. 判決書における被告人の氏名の誤記が、被告人の特定を欠く違法(刑事訴訟法上の規定違反)となるか。2. 直接的な自白が乏しい状況において、取引の主観的態様(知情)をいかなる事実に基づき認定できるか。3. 被告人以外の者が現実に物品を受領した場合に、被告人の受領事実を認めることができるか。
規範
被告人の特定については、氏名の誤記が存在する場合であっても、判決書に記載された本籍、住居、職業、年齢等の他の記載事項を総合して、被告人の同一性が客観的に明らかであれば、被告人の特定を欠くものとはいえない。また、盗品等の知情(故意)の認定においては、取引の相手方の属性、品物の種類・数量、価格の決定方法、帳簿記載の有無、および転売経路の不自然さ等の諸情況を総合し、経験則に照らして推認することが許容される。
重要事実
被告人Aは盗品等の買受け等の罪に問われたが、原判決において被告人の氏名が誤記(「富」を「留」とする等)されていた。また、知情の事実に関し、Aは本件取引を商業帳簿に記入せず、買受けた品物を通常利用する市場ではなく遠方の名古屋で売却していた。被告人Cについては、盗品である衣類を直接受け取ったのが被告人の妻であったが、被告人に代わって受領したものとして認定された。
あてはめ
1. 被告人Aの氏名に誤記はあるが、本籍や住居等の詳細な表示により誤記であることが明瞭であり、同一性を識別可能であるから、被告人の特定に欠けるところはない。2. 知情については、帳簿非記載という隠蔽工作、取引相手や価格決定の不自然さ、通常の流通ルートを避けた売却方法等の間接事実を総合すれば、経験則上、盗品であることの認識があったと認定するのが相当である。3. 被告人Cの妻による受領は、被告人の代理としての性質を有するものであり、被告人自身の預かり事実と何ら矛盾しない。
結論
1. 被告人の特定に欠ける違法はない。2. 諸般の情況から知情の事実を認定した原判決に経験則違反や理由不備はない。3. 妻による受領を被告人の受領と認めることに理由の食い違いはない。
実務上の射程
被告人の特定に関する実務上の許容範囲を示すとともに、盗品等関与罪における「知情」の立証において、帳簿不記載や不自然な転売ルートといった間接事実が極めて重要な推認要素となることを裏付けるものである。答案上は、故意の認定手法(事実摘示から経験則による評価)の具体例として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3571 / 裁判年月日: 昭和30年9月16日 / 結論: 棄却
賍物故買罪は、故買者にその物が財産罪によつて領得されたものであることの認識があれば足り、所論のように、それが何人の如何なる犯行によつて得られたかというような本犯の具体的事実までも知る必要はない。