本件裁判官忌避申立事件として爭點となる事實は、結局金澤地方裁判所が所論の各證據調の決定をしたことを以つて同裁判所裁判官が「不公平な裁判」をする虞れがあるとするかどうかということである。しかるに、論旨の理由とする憲法違反の各理由は、いずれも同裁判所がした證據調の決定そのものに對する非難であつて、斯る事由は證據調に對する異議却下決定に對する特別抗告として主張するは格別、本件裁判官忌避申立事件の却下決定に對する特別抗告理由としてはおよそ的外れの主張といはなければならない。なんとなれば論旨のいうが如く刑訴法第三二一條第一項第二號後段竝びに所論證據調の各決定が憲法に違反するかどうかという事と、本件の爭點たるべき前記裁判官が「不公平な裁判」をする虞れがあるかどうかということゝは自ら別個の問題であつて直接關係のない事としなければならないからである。
裁判官忌避申立の却下決定に對する特別抗告の理由として證據調の決定に對する非難を違憲として主張することの適否
刑訴法25條,刑訴法433條,憲法37條1項
判旨
裁判官が憲法違反の疑いがある証拠調べの決定をしたとしても、そのこと自体が直ちに刑事訴訟法上の「不公平な裁判をする虞」には当たらず、忌避事由を構成しない。憲法が定める「公平な裁判所」とは偏頗のない公平な組織構成を有する裁判所を指し、個別の訴訟指揮の当否は別個の問題である。
問題の所在(論点)
裁判官が憲法違反や法律違反の疑いがある証拠調べの決定を行ったことが、刑事訴訟法21条にいう「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当し、忌避事由となるか。
規範
刑事訴訟法上の裁判官の忌避事由である「不公平な裁判をする虞があるとき」とは、裁判官がその事案について偏見や予断を持って裁判に臨む客観的事態が存在することをいう。また、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、偏頗のない公平な組織構成を有する裁判所を指す。したがって、個々の具体的事件において裁判所が行った証拠調べの決定や訴訟指揮の当否は、原則として忌避事由や憲法上の公平な裁判所の侵害の問題とは直接関係しない。
事件番号: 昭和31(し)34 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が刑事訴訟法312条2項に基づき予備的訴因の追加を命ずることは、審理が相当程度進捗した段階で行われる限り、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められず、裁判官の忌避事由(刑訴法21条1項)を構成しない。 第1 事案の概要:傷害致死等被告事件の第一審において、裁判所(合議体)が主たる訴因…
重要事実
刑事被告人である抗告人らは、第一審の裁判官が、反対尋問の機会を欠く被害者の供述調書(伝聞証拠)につき、刑訴法321条1項2号後段を適用して証拠採用する決定をしたこと、および名誉を毀損するおそれのある被害者の身体鑑定を命じたことを捉え、当該裁判官は憲法違反の証拠を調べるものであり「不公平な裁判をする虞」があるとして、裁判官の忌避を申し立てた。
あてはめ
抗告人らが主張する証拠調べの決定の違憲性や違法性は、当該決定そのものに対する不服申し立て(異議の申し立て等)において争われるべき事由である。裁判官が検察官の証拠調べ請求に対し、弁護人の異議を却下して証拠採用を決定したからといって、その裁判官が事件に対して偏見を抱いていることや、裁判所の組織構成が不公平であることにはならない。これらは裁判官の訴訟指揮上の法的判断にすぎず、客観的に裁判の公平を疑わせる事情とは認められない。
結論
本件における証拠調べの決定は、裁判官忌避申立事件の理由としては的外れであり、忌避事由には当たらない。したがって、特別抗告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における「忌避」の限界を画した判例である。裁判官の判断の誤り(証拠採用の当否等)は、上訴や異議による救済を図るべきものであり、それをもって直ちに裁判官の偏頗性(忌避事由)に結びつけることはできないという実務上の峻別を示す。答案上は、裁判官の訴訟指揮を理由とする忌避申立てが認められない根拠として引用できる。
事件番号: 昭和33(し)85 / 裁判年月日: 昭和33年12月15日 / 結論: 棄却
一 裁判官忌避申立却下決定の成立後、その送達前に、その決定をした裁判官を忌避する申立があつても、右決定は、訴訟法上適法に構成された裁判所の裁判たる性質を失うものではない。 二 刑訴第二三条にいう「その裁判官所属の裁判所が、決定を」するというのは、忌避された裁判官所属の裁判所の裁判官をもつて構成される、訴訟法上の意味の裁…
事件番号: 昭和29(し)69 / 裁判年月日: 昭和29年12月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】逮捕状を発付した裁判官がその後の審判に関与したとしても、客観的に偏頗の惧れがある等の特段の事情がない限り、裁判の公平を欠くものではない。 第1 事案の概要:本件において、抗告裁判所の裁判官が過去に同一事件の逮捕状を発付していた。抗告人は、当該裁判官が審判に関与することは公平な裁判所による裁判を受け…
事件番号: 昭和38(し)33 / 裁判年月日: 昭和39年3月12日 / 結論: 棄却
刑訴法第二二条は、憲法第三七条第一項に違反しない。
事件番号: 昭和29(し)64 / 裁判年月日: 昭和29年12月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、被告人側が申請した証人をすべて喚問することを義務付けるものではなく、証拠調の必要性の判断は裁判所の合理的な裁量に委ねられる。当該証拠が唯一の証拠でない場合など、不必要と認められる証人の尋問を却下することは同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、第一審公判において、…