被告人は人絹糸合計四五〇封度を不法に買受けたことを自白しており、他方司法警察員A作成の領置調書の記載及び同人の第一審公判廷における供述によつて、被告人の買受けた人絹糸が同人の家において押収されたことが立証され、従つて被告人の自白した事実が架空のものでないことがわかる、さればこれらの証拠は被告人の自白の真実性を裏付けるに足り、その補強証拠となり得る。押収された人絹糸の数量が被告人の自白した数量と喰い違つているというだけの理由によつて、これ等のものが補強証拠となり得ないということはできない。 (昭和二三年(れ)第六一号同年一一月五日大法廷判決参照)。
押収物の数量について自白と証拠との間にくいちがいがある場合と補強証拠
憲法38条3項,刑訴法319条2項,刑訴法318条,刑訴法378条4号
判旨
自白の補強証拠は、犯罪組成事実の全部を裏付ける必要はなく、自白の真実性を保障し得るものであれば足り、押収された物件の数量が自白と多少相違しても補強証拠となり得る。
問題の所在(論点)
自白の補強証拠は、犯罪の構成要件に該当する事実のすべてを網羅的に裏付ける必要があるか。また、押収物件の数量が自白と異なる場合に、自白の真実性を保障する補強証拠として認められるか。
規範
自白の補強証拠(刑訴法319条2項)は、必ずしも自白にかかる犯罪組成事実の全部をもれなく裏付けるものであることを要しない。自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば、補強証拠として十分である。
重要事実
被告人は、人絹糸合計450ポンドを不法に買い受けたことを自白した。これに対し、司法警察員作成の領置調書および公判供述により、被告人が買い受けたとされる人絹糸が被告人宅において押収された事実が証明された。ただし、実際に押収された人絹糸の数量は、被告人が自白した数量(450ポンド)とは食い違っていた。
事件番号: 昭和27(あ)4684 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白にかかる犯罪事実が架空のものでないことが保障される限り、自白の各部分につき逐一これを裏付ける補強証拠がなくても、憲法38条3項に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が関与したとされる取引について、その主体の認定を含む犯罪事実を自白により認定したところ、弁護人が憲法38条3項(自白の…
あてはめ
被告人宅から人絹糸が押収された事実は、被告人が自白した「人絹糸の不法買受け」という事実が架空のものではないことを裏付けるものである。押収された数量と自白された数量に食い違いがあるとしても、その一事をもって直ちに証拠能力を否定すべきではない。当該証拠は、自白の核心部分である買受け事実の真実性を保障するに足りる評価ができるため、補強証拠として機能する。
結論
被告人の自白には十分な補強証拠が存在し、犯罪事実の認定は適法である。したがって、原判決に刑訴法319条2項違反の違法はない。
実務上の射程
補強証拠の程度について「実質説(真実性保障説)」に立つことを再確認した判例である。実務上は、自白の主要部分を裏付ける間接事実があれば、客観的な不一致が一部あっても補強証拠として認容される余地を認める際に引用する。
事件番号: 昭和25(あ)334 / 裁判年月日: 昭和28年12月17日 / 結論: 棄却
第一審の裁判官が職権を以て所論証人を喚問する旨の決定をするについて検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなかつたことは所論のとおりであるが、検察官及び被告人又は弁護人はこれに対し何等異議の申立をした形跡はなく、却つて、右証人尋問の際、検察官及び弁護人は自ら進んで右証人の尋問をもしていることが認められるのであるから、前記…
事件番号: 昭和24(れ)1892 / 裁判年月日: 昭和24年10月25日 / 結論: 棄却
原判決の裁判書に、被告人の年令として「當二十四年」と記載されているのは「當三十四年」の誤記であること記録上明らかである。されば、原判決は所論のように裁判書に被告人の年令を記載しなかつたものとは云えない。
事件番号: 昭和26(れ)841 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判で供述した内容だけでは自白が強制によるものとは認められず、証拠採用は適法である。また、被告人側の証人申請を却下することは裁判所の裁量に属し、憲法37条に反しない。 第1 事案の概要:被告人Aが原審公判において、自白が強制によるものである旨の供述を行った。また、被告人側は証人申請を行った…
事件番号: 昭和26(れ)1192 / 裁判年月日: 昭和26年10月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠は、自白の内容と合致し、かつその自白を実質的に裏付ける程度のものであれば足り、被害者以外の第三者が作成した書面もこれに該当し得る。 第1 事案の概要:被告人は、原審の公判廷における供述、副検事に対する聴取書中の供述、及び第一審公判調書中の供述において自白をしていた。原判決は、これらの…