第一審の裁判官が職権を以て所論証人を喚問する旨の決定をするについて検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなかつたことは所論のとおりであるが、検察官及び被告人又は弁護人はこれに対し何等異議の申立をした形跡はなく、却つて、右証人尋問の際、検察官及び弁護人は自ら進んで右証人の尋問をもしていることが認められるのであるから、前記違反は、該証言を証拠とすることに影響を及ぼさないことが明白である。
第一審における証人喚問手続に関する違法があつても判決に影響を及ぼさない事例
刑訴法298条2項,刑訴法299条2項,刑訴法379条,刑訴規則190条2項後段
判旨
憲法38条3項が要求する補強証拠は、自白と相まって犯罪事実を認定するに足りる実質的な証拠価値を有していれば足りる。また、裁判官が職権で行う証人喚問に際し意見聴取の手続に不備があっても、当事者が異議なく尋問に関与していれば証拠能力に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
1. 公判廷での被告人の自白に対し、共犯者や第三者の供述が「補強証拠」として認められるか。2. 職権による証人喚問において、当事者の意見を聴取しなかった手続的違法が、証言の証拠能力を否定するほどの重大な違反となるか。
規範
自白の補強証拠(憲法38条3項、刑訴法319条2項)は、被告人の自白を補強するに十分な実質的関連性を有する証拠であれば足りる。また、裁判官の職権による証人喚問における意見聴取手続の欠缺については、当事者が異議なく尋問に参加し権利が行使されている場合には、当該証言の証拠能力に影響を及ぼさない。
重要事実
被告人が各種油の立数(数量)等を含む犯罪事実について自白した事案において、第一審判決は、被告人の公判廷での自白に加え、証人Aの公判廷における供述および副検事作成の第三者(奥本銀蔵)に対する供述調書を証拠として事実を認定した。また、第一審裁判官が職権で証人を喚問する際、検察官や被告人・弁護人の意見を聴く手続を省略したが、当事者は異議を述べず、自ら進んで当該証人を尋問していた。
事件番号: 昭和27(あ)4684 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白にかかる犯罪事実が架空のものでないことが保障される限り、自白の各部分につき逐一これを裏付ける補強証拠がなくても、憲法38条3項に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が関与したとされる取引について、その主体の認定を含む犯罪事実を自白により認定したところ、弁護人が憲法38条3項(自白の…
あてはめ
1. 自白の補強について、証人Aの証言および第三者の供述調書の記載は、自白に係る立数等の事実を裏付けるものであり、これらを総合すれば自白の真実性を担保するに十分であるといえる。2. 職権証人喚問の手続違法について、裁判所が事前に意見を聴かなかった事実は認められる。しかし、検察官および弁護人はこれに異議を申し立てず、むしろ自ら進んで証人尋問を行っている。この場合、防御権や訴訟上の権利が実質的に侵害されたとはいえず、手続の不備は判決に影響を及ぼさないことが明白である。
結論
被告人の自白に十分な補強証拠があるとした原判断、および職権証人喚問の手続不備が証拠能力に影響しないとした判断は正当であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の真実性を担保する補強証拠の程度や範囲を示すとともに、職権証拠調べにおける意見聴取の不備について「責問権の放棄・喪失」に近い論理で証拠能力を維持する実務上の運用を肯定している。刑事訴訟法298条2項の職権証拠調べの運用における重要な参考となる。
事件番号: 昭和26(れ)841 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判で供述した内容だけでは自白が強制によるものとは認められず、証拠採用は適法である。また、被告人側の証人申請を却下することは裁判所の裁量に属し、憲法37条に反しない。 第1 事案の概要:被告人Aが原審公判において、自白が強制によるものである旨の供述を行った。また、被告人側は証人申請を行った…
事件番号: 昭和26(れ)1291 / 裁判年月日: 昭和26年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決裁判所の公判廷における被告人の自白については、憲法38条3項の「本人の自白」に含まれず、補強証拠を要しない。 第1 事案の概要:被告人が公判廷において自白したが、その自白を裏付ける補強証拠の存否またはその要否が争点となった事案。弁護人は、自白には補強証拠が必要であるとして上告を申し立てた。 第…
事件番号: 昭和24(れ)1892 / 裁判年月日: 昭和24年10月25日 / 結論: 棄却
原判決の裁判書に、被告人の年令として「當二十四年」と記載されているのは「當三十四年」の誤記であること記録上明らかである。されば、原判決は所論のように裁判書に被告人の年令を記載しなかつたものとは云えない。
事件番号: 昭和26(れ)2301 / 裁判年月日: 昭和27年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が記載された聴取書や訊問調書について、強制、拷問または脅迫によるものであると認めるに足りる資料がない場合には、憲法38条2項に反するとの主張は理由がない。 第1 事案の概要:被告人の自白が記載された各聴取書および訊問調書について、弁護人はこれらが強制、拷問または脅迫によって得られたもの…